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雨のち晴れのち 虹が見たいなら【群青日和 #40】

【試合結果】
5/19(日) 中日ドラゴンズ
●2-3
[勝]柳
[敗]大貫
[S]マルティネス

◇ ◇ ◇

ずいぶんとハードな所に突っ込むなあ。
中継画面を見つめながら、少し目を見開いてしまう。
この2024年シーズンが始まって2ヶ月弱の間、なんとなくの印象ではあるけれど、どうも首脳陣は新しい戦力と見込んだ若きリリーバー達を敢えて厳しい場面に投入しているように感じる。
例えば、ルーキーの松本凌人、3年目の徳山壮磨、そしてこの5年目の左腕、坂本裕哉もそう。

ハードな所、というのはイニングの途中かつ塁上にランナーがいる状態のいわゆる『火消し』の役目。

今シーズン一軍初登板の試合、5月8日もそうだった。
一死満塁の状況で中川虎大が降板し、坂本裕哉の名前が呼ばれる。

しばらくぶりに投げる姿を見て驚いた。

……こんなに躍動感溢れるフォームだったっけ?
速球を力強く投げ込む時には、投げ終わりの足が豪快にぶわっと跳ね上がる。

一時期は二段モーションにしたりランナー無しでもクイックで投げてみたりと小さな変化を色々つけて、試行錯誤している様はうかがえた。
でも、私の記憶にある坂本裕哉はもう少しこう、きっちりきっちり投げようとする投手だった。時にそれが裏目に出てしまって、自ら難しい状況にしてしまうこともあったり。

明らかに根本的に変わった。
素人目にも、上半身を大きく使い下半身がそれをしっかりと受け止めて球に力が伝えられているのがよく分かる。
身長は変わっていないはずだけど、記憶の中の坂本よりもとても大柄に見えさえする。

オフシーズンの自主トレはクローザーの森原康平とともにピラティスを取り入れた体幹トレーニングに勤しんだり、外部のピッチングコーチに師事したりと、大きな変化を求めてコツコツ準備していたことはSNSなどを通じて知ってはいた。

明らかな違いとして、ストレートの球速がぐっと上がった。
平均145km/m前後だったのが、コンスタントに150km/hが出る。
それも見た感じからして力のある、球が重そうなストレート。

慎重にゾーンの隅をついて変化球に頼りながらなんとか一巡は抑える先発投手から、ストライクゾーンにしっかり強い球を投げ込んでカウント有利に進め、スプリットチェンジやスライダーで空振り、状況によっては併殺も狙えるパワータイプの左腕リリーバーに。
この1年ちょっとの間に、ここまでスタイルを変えられる選手はそうそうない。

一軍初登板となったその日は、代打青木に対して5球、それも全てストレートを投じて一死満塁で詰まらせてピッチャーゴロに仕留めた。
フィールディングでも一切焦ることはなく、落ち着いてキャッチしすぐにホーム送球。
そのままファーストに転送されて、注文通りのゲッツー完成。
強くガッツポーズを取り、堂々とマウンドを降りる坂本。

先発から中継ぎに配置転換されて火消しの場面で輝くその姿は、かつて同じ背番号20を背負った先輩の勇姿に重なるものがあった。

◇ ◇ ◇

今日の場面もやっぱりそうで。
ゲームがバタバタっと動き出し、四球安打安打と繋がれてこれ以上は失点したくない、けれどもドラゴンズの打線に勢いが増してきた7回表。
一死一二塁、悪いけどちょっと火消しを頼むよ、という分かりやすい場面。
5月8日以降も2回登板機会があったが、それはイニング頭から任されるリリーバーとしての『通常業務』。
さて、坂本はどう投げるだろう。

勝負の決着は、あっという間についた。
内角にスライダーを投じて、見逃しでワンストライク。
そしてその次の球。
山本祐大がミットを構えたアウトコース低め、まさにそこ目掛けて大きく腕を振ってぐっと球速が抑えられたチェンジアップを投げる。
これを振って当たってさえくれれば、と思ったそのコンマ1秒後にビシエドのバットが遅れて出てくる。このコースでこの球種ならもうこうなるしかない。
4-6-3、または遊併殺打。
2球でふたつアウトを取って、すたすたとベンチへ帰っていく坂本。

これで4登板目になり、いまだ無失点。
左打者にはいまだに安打すら許していない。

ハードな場面で名前を呼ばれようと結果を出して起用に応え、自分の自信に変えていく。首脳陣が起用に込めた期待と、坂本裕哉の今シーズンに向けた覚悟が一戦一戦の実績に繋がっている。

石川達也とはまた違ったタイプの左腕リリーフは、必ずこの長い戦いで大きな支えになる。

日に日に頼もしくなる坂本裕哉の姿に、そんな予感がした。

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