ちょっとの悪
子育てに正解はないとよく聞くけれど、それでも右往左往してしまうのが人間てもんではないだろうか。私も初めての育児では肩に力が入っていた。不安な気持ちを抱えつつも「この子をちゃんと育てなければ!」と鼻息が荒かった。
33歳で娘を出産。娘は健康そのもので産まれたのだが、生後2か月頃から頬に赤い湿疹ができ始めた。小児科で診てもらったところアトピーではないと言う。だが処方された軟膏を塗っても一向に良くならない。母乳育児だったので「もしかして私の母乳のせい?」という疑問が頭に浮かび、ネット検索を始めた。するとまあ出てくるわ出てくるわ。
「母親の子宮に毒素が溜まっていると生まれた子はアトピーになりやすい」
「動物タンパクや油分の多い食事をしていると母乳がつまりやすく、赤ちゃんもアレルギーになる傾向が高い」
など、不安になるような情報がてんこ盛りであった。当時、旦那は長期海外出張中。ほかに相談できる人もいなかった私は生真面目に情報を追い、そして食生活にも適用していった。
米は無農薬の5分づきを取り寄せ、玄米と混ぜて炊く。野菜は有機野菜宅配。スーパーの野菜は農薬まみれなので基本買わない。調味料はすべて自然食品店レベル。漂白されてる白い食べ物、つまり白米、小麦粉、白砂糖などもってのほか。子供にも食べさせない。市販のスナック菓子炭酸ジュースは飲ませず、お茶かお水か100%の果汁ジュース。おやつは自然食品店で買った卵ボーロや果物。
もちろん、良い材料で作ったご飯はおいしい。でもスーパーの総菜もファミレスもファストフードもNGだと、外食がほとんどできないんである。自分で作るしかないんである。これがだんだん辛くなってきた。
それに自分が無理して頑張ってる分、よそのお母さんを心の中で批判する。
「うわ! あんな小さい子にマックのポテト食べさせてる。信じられない。ろくな舌にならないだろ」などと思ってしまうのである。
何を食べようかと考えた時、「あれもこれもダメから、だとすると…」と否定形から入る。これって体の声を聴いてるんじゃなくて、頭で食べてるよなと思った。
当時、ある自然育児系のイベントで、マクロビ教室を運営している同年代の女性と話す機会があった。その人がこっそりという感じで私にこう打ち明けたのだ。
「年に2、3回だけど、生理前にどうしてもマックが食べたくなるの。モスやフレッシュネスバーガーのほうがまだマシだと思うんだけど、なぜかマックなのよね。でもマクロビ教室やってるのにマックにいるところを見られるとマズいから、電車でわざわざ3駅くらい離れたマックに行くの」
「いいんじゃないですか。普段いいものを食べてるんだから、たまには悪いものを食べないと体がなまるんですよ、きっと」と冗談半分にコメントしてみたところ、「あ、そっか。そうかも!」と彼女はなぜか納得してくれた。
やっぱりなと私は思った。生きてれば良い物も悪い物もどっちも必要なんだ。良い物や正しい食事だけを取るんじゃなくて、多少悪い物を食べてもびくともしない体に娘を育てればいいんじゃん! と私はあっさり宗旨替えした。
だって…
だってめんどくさかったんだもん。そもそも娘はカンが強くて喜怒哀楽が激しく、ワンオペ育児もあいまって私は疲れ切っていた。無理なもんは無理。できる範囲でいい。そう思って食事の基準を緩めたら精神的にかなりラクになった。経済的にも少し負担が減った。そう、意識の高い食生活はお値段も高いんである。
料理が好きな人、材料を厳選して体に良い食事を作るのが苦じゃない人は、どんどんやればいいと思う。でも私は本来がずぼらで、時にはちょっと悪い物も楽しみたいタイプだから続けるのは難しかった。「私はちゃんと母親として頑張ってやっている」という自己満足は一時的に得られたけど。でもこの「ちゃんと母親として」てのが曲者で、食事に限らずあらゆる場面で顔を出すのだ。要は自分の中の基準で自分を裁いて批判してるだけなんだけど、早目に手放すに越したことはない。「できることしかできないさ」と開き直ることも育児では大事な気がする。だって「ちゃんとした母親像」には終わりがないから。真面目な人ほど手を抜かずに全方位的に頑張ろうとしてしまうけど、子供なんて本当は色んな大人が寄ってたかって適当に育てた方がいいに決まってる。けれど母親にかかる負担が大きい今の時代では、本人が手の抜きどころを覚えるのも精神衛生上必要なことだと思う。
テキトーでいいじゃん!
テキトーで行こうぜ!
現在、娘は19歳。ありがたいことに健康にすくすく育った。
頬の湿疹は食事にこだわっていた時には消えなかったのに、宗旨替えをして開き直っていたら3歳になる頃にはいつの間にか消えていた。
子育てで辛くなってるママに言いたい。大丈夫、子供には育つ力がある。気負いすぎなくても意外と勝手に育つ。もちろん子供によって個人差はあるし、食事も大事。でも正しさを追求するあまり、自分が辛くなるような選択はしなくていい。できる範囲でやれることをやればいい。というか、それしかできない。それで上等じゃないかと私は思う。
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