第35回歌壇賞受賞作・次席作・候補作を読む①
今年の目標、読んだものの感想を記録に残すこと。
歌壇2月号を読んだのはずいぶん前ですが、歌壇賞の受賞作・次席作・候補作についてあらためて書いていきたいと思います。
しっかりした批評、というよりも、個人の感想をぽつぽつ……流し読みそうめんしてくれると嬉しいです。
※以下、敬称略
「ハーフ・プリズム」/早月くら
くらさんの作品は、うたの日や同人冊子「絶島」で読んでいて、かつとても素敵な印象をもっていたから、受賞のお知らせを見たときにほんとうに嬉しかった。あらためておめでとうございます。(あらためすぎて5回くらい言っている……しつこくてすみません)
実は次席短歌連絡会で選ばせていただいたことがある。そのときの歌もふくめ、句読点が歌のなかに使われているのが特徴的。歌を声に出して読むときのリズムや息遣いが濃く感じられるのと同時に、短歌における韻律、元からあるものとして存在する韻律をすこしあたらしい視点で捉え直しているようにも思えた。
なにより「ハーフ・プリズム」は、選評でも言及されているように、作中主体の性格や感情、いわば個人性のようなものがあまり出てこない。代わりに一首一首をつらぬく絶対的な透明感が、読み手の心に詩情を染みわたらせてくるようだった。「ひかり」「硝子」「とうめい」「つめたさ」といったモチーフが、まさにプリズムの屈折する光のように行き来する。タイトルのとおりに連作全体にしずかなきらめきがあって、歌ごとにある波紋のような緩急が、読み進めていくのに心地よい。
くらさんが信じている「詩」が、決して読み手に押しつけることはせずに淡々と描かれているように感じた。強い思いに裏打ちされた、くらさんだけの世界をひしひしと感じられる連作でした。うっとりしてしまう。
どの歌も好きですが、最初からずきゅんと撃ち抜かれた一首目と、リアルな感覚に迫った一首が心に残った。
「白昼」/福山ろか
第69回角川短歌賞次席作品の「眼鏡のふち」で福山ろかさんの作品を読んで、ああすごく良いなあと思った記憶。というか連続で異なる賞の次席、超人だ……!
作中主体の「わたし」や、「わたし」だけでなくその周りも含めた世界をどこか俯瞰的にみている歌が特に心に残った。たしか「眼鏡のふち」でも同じ感想をもったような気がする。一首一首にある歌の骨(?)がとてもしなやかなのにしっかりしている印象。現代仮名遣いのなかにときどき古文調の表現が出てきて、歌意に寄り添ったかたちで工夫されているように感じた。
連作としてももちろん素敵だけれど、どの一首をとって読んでもブレのない、隙のない巧さがあって、本当にすごい。すごいしか言っていない。
歌に詠んだことも、これを詠まれた歌に会ったこともない。共感できるのに斬新な一首に惹かれました。
「時計草」/坂中真魚
人間を濃く描写された連作。選評で話題になっていた、震災詠なのかそうでないのか、についてははっきりとわからなかった。「三月」とあるので震災の回顧にも読める。ただいずれにせよ「父」の息苦しさのようなものをとても強く感じながら読み進めた。「祖母」の死だけではなくて、それ以上に「父」の存在が印象に残る物語。
この一首にいろいろと込められているような、人間関係の生々しさを想像させられる歌。
「海のもの、山のもの」/松本志李
バイクに乗ってすいすいと自然のなかをゆく感じ、読み終えてとても清々しかった。比喩や名詞の用い方が、主体をとおして見る世界をぐっと広げている感じがする。ただ情景描写だけではなくて、ときどき主体個人を振り返る歌が出てくる。「『女だてらに』などと言われて」という表現をみて、わたし自身がこの連作を読みはじめて勝手に主体を男だと想像していたことに気づき、浅はかだ……と反省した。素直に、じぶんの無意識なフィルターがこわいなと思った。
一首一首の描写がすごくしっかりとしていて、自然の世界に主体とともに踏み入れたような気持ち良さ。
それぞれの歌にちからづよい水が流れている感じがしてとても好きなのですが、特に心に残った歌。
「confidential」/乃上あつこ
職業詠の連作で、とても細やかな部分にリアリティが出ていて読みごたえがあった。美容施設のなかで働いている主体は、中国語の通訳を担当しているのかな。本意ではないであろう謝罪する役や虫退治をする係をして、またクレームを受けたりもする理不尽にさらされながらも、どこか飄々とした雰囲気で事実を歌っているのが印象的だった。主体は社外の従業員であることが示されているが、confidential (社外秘)というタイトルにしつつ、実際にそこ(社内)で働く現実を詠んでいるというのがまた面白い。
女性の多い職場特有の歌がいくつかあったが、なかでも特に、隠さずリアルな描写が頭に残った一首。