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一日一書評#8「辞書から消えたことわざ/時田昌瑞著」(2018)

「ムカデが草鞋はく」「情けには鬼のつのも折れる」「トンボの鉢巻き」・・・一体何の造語かとお思いだろうが、これらはかつて日本で使われていた、れっきとしたことわざなのだ。

本書では、今では使われなくなってしまったことわざを数多く収録している。言葉には移り変わりがある。新しく生まれたり、廃れたりする。そう考えると、使われなくなったことわざも数多く存在するのも自然なことだろう。

著者の時田昌瑞さんは、日本ことわざ文化学会の会長で、ことわざ研究の第一人者だ。時田さんは、様々な文献の中からことわざが使われている箇所を探し出す「ことわざ拾いの旅」にいそしんできた。その経験を活かして、現在ではほとんど使われなくなったことわざを発掘し、本書で紹介している。その数は約200種類にも上る。

冒頭に挙げたことわざの解説を読んでみる。「ムカデが草履はく」は、面倒なことのたとえとして使われていたらしい。足の多いムカデが一つ一つの足に草履をはくのだから、確かに手間がかかりそうだ。このことわざは、江戸時代後期の文献に見られ、以前は比較的使用されていたとのことである。

「情けには鬼の角も折れる」。鬼のような人でも、情けを掛けられると心が和らぐという意味らしい。「情け」という言葉が含まれることわざは「情けは人の為ならず」などが存在する。こちらは現在でも使われているメジャーなことわざだが、使われていることわざと消えたことわざの違いは何だろうか。本書では、他にほぼ同じ意味のことわざが存在した、たとえに使われているもの自体が古くなってしまった、などの理由で使われなくなったものが多く掲載されている。ただ、読み進めていくと、「これは現代でも使えるのではないか」と思えるようなことわざも多数出てくる。特に理由もなく使われなくなったものがほとんどだろうが、その辺りも気になって仕方ない。

普通のことわざは載っていない、「裏ことわざ辞典」というべき本書の世界に、ぜひ浸ってみて欲しい。


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