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一日一書評#31「アンソロジー 捨てる/大崎梢他」(2018)

「アンソロジー 捨てる」には、「捨てる」をテーマにした短編小説が9本収録されている。本作の表紙には、参加した9人の人気女性作家の名前と共に、〈アミの会(仮)〉という文字が並んでいる。このアミの会(仮)というのは、この9人の集まりの名前で、若手作家の集まりである「雨の会」へのリスペクトから付けられたそうだ。会の目的は、集まって食事をしたり、アンソロジーを出したりすることだ。

アンソロジーを読んで、毎回すごいなと思うのは、同じテーマで書かれた文章なのに、内容が似通ったものにならないことだ。本作も、「捨てる」をテーマに、個性豊かな物語が紡がれている。それぞれの「捨てる」の解釈は「捨てられない」や「捨てて欲しい」だったりと、微妙に変わってくる。

私は、今回参加している作家さん全員の作品を読んだことが無かったので、新鮮な気持ちで読むことが出来た。全体の印象としては、「捨てる」という比較的マイナスな言葉がそうさせるのか、本来の作風なのか、ブラックな方向へ進む話が多く見受けられた。光原百合さんの「四つの掌編」の「戻る人形」はホラー小説であり、近藤史恵の「幸せのお手本」は、後味の悪いサスペンスに仕上がっている。

しかし、暗い作品に負けじと、明るい作品も印象に残るものばかりだ。大崎梢さんの「箱の中身は」は、フォトスタジオで働く男と、宝物を捨ててくるように親に言われた女の子の偶然の出会いを描く、ハッピーエンドのほのぼのとした作品だ。また、福田和代さんの「捨ててもらっていいですか?」は、祖父の遺品整理の最中に、本物の拳銃が出てくるというありそうでない展開の物語だ。そこから始まるドタバタの会話劇は、緊張と緩和でどんどん笑いを生み出していく。

アンソロジーは、知らない作家と出会うきっかけになると、あとがきで近藤史恵さんが書いていたが、私は1冊の本で、9個の異なる良い出会いがあったと思っている。


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