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一日一書評#32「メタモルフォーゼの縁側(1)/鶴谷香央理著」

本を読んでいると、死ぬまでに何冊読めるだろうかと思う時がある。年を取るにつれて、読む本のジャンルも変わってくるのだろうか。何歳になっても、新たなジャンルの本との出会いを楽しいものとして受け入れることが出来るだろうか。

鶴谷香央理さんの漫画「メタモルフォーゼの縁側」の主人公は、75歳の老婦人・市野井雪と、17歳の書店で働く高校生・佐山うららだ。ある日市野井は、佐山の働く書店に入る。偶然見つけた綺麗な表紙に惹かれ、料理本と一緒に漫画を購入する。その漫画本は、BL作品だった。そこから市野井は、作品の魅力に取りつかれ、同じくBL好きの佐山とも交流を深めていく。

市野井は、BLの世界のことは全く知らなかった。それでも、未知の文化を受け入れながら、作品を楽しんでいく。その光景が何とも微笑ましい。作品全体の印象は、時間の流れがゆっくりで、丁寧に優しく描かれていることが挙げられる。BLで繋がった二人の表情、心境がじっくり楽しめる。

1巻では、二人が好きになった漫画家が参加する同人誌即売会に入場しようとする場面で終わっている。これからの展開が非常に気になるが、ずっと平和な作品であって欲しいと切に願う。

BL作品は、人気があるとはいえ、支持している人は少数派だ。佐山はそれはわかっている。だからこそ、市野井にオススメの作品を貸して欲しいと頼まれた時も戸惑う。しかし、市野井はBLに対して偏見を持たない。ただ良い作品だから受け入れるし、好きだと心から言える。

市野井がBLと出会ったのは偶然だったかもしれない。しかし、そこに魅力を感じ、のめり込むまでに至ったのは、本人の受け入れ方によるものが大きい。自分も年を取った時に、知らない価値観のものを心から歓迎出来るだろうか。今だったら「そういうのも良いよね」と考えることが出来るが、年齢を重ねて固くなった頭では無理かもしれない。そんなことを、本作を読んで考えるのであった。


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