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一日一書評#34「ないもの、あります/クラフト・エヴィング商會」(2009)
この本の存在を知った時は、勝手に「やられた!」と思った。発想一発勝負の構成に、表現の豊かさが加わり、非常に面白い一冊となっている。
「ないもの、あります」は、著作と本の装丁を多く手掛けるクラフト・エヴィング商會によって書かれた、全125ページの本だ。ちなみに、本作もクラフト・エヴィング商會がカバーデザインを担当している。
タイトルの「ないもの、あります」とはどういう意味か。まず、この本において、クラフト・エヴィング商會は架空の店だ。「ないもの、あります」の看板を掲げ、言葉として存在するけど、実際にはないものを取り扱っている。では、その実際にはないものとはどんなものだろうか。目次ならぬ目録を見ればすぐわかる。堪忍袋の緒、舌鼓、左うちわ、相槌・・・ことわざや慣用句でお馴染みの、26個の「ないもの」を「あるもの」として扱っているのだ。目から落ちたうろこ、自分を上げる棚、取らぬ狸の皮ジャンパーなんてものもある。
ページを開くと、「ないもの」の解説が始まる。それらがあたかも日常で使われているかのように。ちなみに、堪忍袋の緒は、下町の職人が作っていて、舌鼓は西洋料理対応の新製品で、左うちわはこれ1枚で遊んで暮らすことが出来るそうだ。「ないもの」の解説だから、基本的に何でもありだが、元の意味を守りつつ遊んでいるのが非常に楽しい。
ジョーク満載の楽しい本だが、時々深いことも書かれている。他人のふんどしという商品の解説には、「〈他人のふんどし〉を利用していることに本人は全く気付いていないのが、どうにも困りものというか、いい加減にしろよ、と申しますか、おい、何もかも他人に頼らないで、少しは自分で考えろよ、なのでございます。」と、少し厳しいことが書かれている。ちなみに、他人のふんどしは、商品の性質上、永遠に自分のものにならないという面も持っている。
嘘しか書かれてないこの本を、楽しく読むか真剣に読むかは、読者次第である。
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