[interview]#2 直井恵さん/うえだ子どもシネマクラブ(上田市)
築100年以上、昭和初期から街の映画館となり、現在はいわゆる単館系の映画を上映している上田映劇で、2020年から「うえだ子どもシネマクラブ」が始まりました。休館日の劇場を不登校などの子どもたちに開放し、映画を通した学びの機会と自宅や学校以外の居場所を提供する、ユニークなプロジェクトです。その発起人、直井恵さんにインタビューしました。
編集・取材・構成=岡澤浩太郎/八燿堂
写真提供(*)=うえだ子どもシネマクラブ
※インタビューのダイジェスト+αはポッドキャストで公開しています
誰一人取り残さない?
岡澤浩太郎(以下、K) 「週末こども映画館」(注・中学生年代までの子どもたちを対象とした映画を週末限定で上映する上田映劇のプログラム。高校生以下は500円で鑑賞できる)で、『銀河鉄道999』(1979年)をやっていたとき、うちの子どもを連れて行ったんです。
直井恵さん(以下、直井さん) ぴったりですね! しかもフィルムで観るなんて、貴重な経験ですね(笑)。
K そのとき子どもは6歳だったんですけど、僕は映画を観ながら、「子どもには難しい映画かなあ」「ちょっと残酷かな?」って思っていたんです。だけど本人はめちゃくちゃ楽しんでいて。
子どもってすごく感性を開いていて、いろいろなこと感じたり学ぼうとしたりしていることが、よくわかったし、大人が子どもを忖度して「子どもにはまだ早い」なんて言うのは、単に阻害しているのと同じなんじゃないかと。
直井さん 本当にそうなんですよ。「うえだ子どもシネマクラブ」(以下、シネマクラブ)をやっていても、こっちの意図とは全然違う映画に反応することも多くて。
K やっぱりそうなんですね!
シネマクラブは映画館休館日の月曜日を不登校になったりした子どもたちに開放して、子どものために選定した映画を無料で鑑賞できたり、館内のカフェ「SAMU cafe」でくつろいだりカウンターに立ったり、仕事を手伝ったりしながら、子どもたちの居場所や、映画を通した学びや人間関係を通した社会勉強の機会を提供していますよね。
会場である上田映劇自体、民間企業ではなくNPO法人上田映劇が運営するという、ある種コミュニティシネマのようなあり方もユニークですけど、さらにシネマクラブは、活動の核に子どもを据えるというのが、すごくいい試みだと思うんです。
K 特に、子どもは無料で鑑賞できるのがすごいですね。これはどういう理由があるんですか?
直井さん いま、「誰一人取り残さない」というフレーズが叫ばれてますけど、実際は学校に行けなくなったり、馴染めなかったりする子がいて、取り残されている子はたくさんいるんです。だから機会の格差みたいなものは、これからすごく開いていくんじゃないかと思っていて。
だからこそ、義務教育が無料で受けられるように、シネマクラブは無料にこだわっているんです。そのために寄付とか助成金とか、資金集めは毎年考えないといけないんですけど(笑)。
K シネマクラブはどういう経緯で始まったんですか?
直井さん 私は20代の頃にフィリピンで、国際協力のNGOで働いていたんですね。向こうは本当に食べるものもなくて、どうやって今日生きて行けばいいかっていう子どもがたくさんいて。
だけど同じ頃、日本の10~20代の若者の死因の第一位が自死だと報道されているのを知って、「それってどんな国なんだろう?」「フィリピンにも課題は山積みだけど、日本は日本で、なんかおかしいぞ」って。
〔編注〕若年層の自死
直井さん その後、自分の出産などいろいろなことがあって、地元の上田に帰ってきて、フィリピン時代のつながりでミュージシャンや先住民の方を呼んでフィリピンの現状を伝える企画を始めたんですけど、そうこうするうちに「映画館を再起動させる」という話を聞いて、かかわることにしたんです(注・上田映劇はシネコンの進出などの影響で2011年に定期上映を終了し貸館営業を行っていたが、復活を望む市民によって2016年から「上田映劇再起動プロジェクト」が始動した。詳細は以下リンクを参照)。
直井さん それで、上田映劇の理事長が若者の自立支援を行うNPO「侍学園スクオーラ・今人」(以下、侍学園)も経営していて、「うちを手伝わないか」という話をもらって、引きこもりとか不登校の若者たちと触れ合うことになったんです。
実際に彼らと話してみると、学校という場に違和感を抱いていたことがわかりました。やっぱり不登校になったのがきっかけで、引きこもりになった子どもがすごく多くて。そう考えると、「学校って何だろう?」という問いかけが生まれたんです。
〔編注〕不登校児童・生徒
直井さん 並行して上田映劇は再起動を果たしていて。ただ、いろいろな人に映画を観てもらいたいと思っても、来るほとんどはコアな映画ファン。だから、映画を観る余裕がある人と、毎日を暮らすことに精いっぱいの人の間にある差を、ものすごく感じたんです。
そんななか、休眠預金を財源として確保できることになり、先ほどの侍学園、NPOの中間支援を行うNPO「アイダオ」、上田映劇の3団体でコンソーシアムを組んで、「学校に行っていない子どもたちの居場所として映画館を使う」というプロジェクトとして、シネマクラブを始めることになりました。私は主にアイダオとして各団体間の調整役として動いてきました。
「うえだ子どもシネマクラブ」は、こんな場所
K シネマクラブを始めるうえで、海外を含めて、モデルケースはあったんですか?
直井さん ありません(笑)。「映画と子どもの相性はいいに違いない!」「映画に触れてこなかった子たちに映画を見てもらうきっかけになる」っていう直感ですね。
直井さん 映画監督の諏訪敦彦さんがおっしゃってたんですけど、映画の本場のフランスでは教育のカリキュラムに映画教育がちゃんと組みこんであるそうなんです。
K フランスの場合は、多分、授業の一環として美術館に行くのと同じように映画館に行く感じですよね。
だけどシネマクラブの場合は、子どもにとってのコミュニティとまでは行かないまでも、映画館が公教育とは独立した学びの場所であり、自宅から独立した居場所になっている。
直井さん そうなんです。初めは「毎月1回、1作品を、みんなで観よう」っていう上映会のスタイルで始めたんです。だけどそれだと、映画作品によって人の集まり具合にバラつきが結構あったんです。
作品選定をしているスタッフがその様子を見て、「子どもたちが作品を選んでいるんだったら、単純に選択肢を増やせばいいんじゃない?」と。確かに選択肢が増えれば、外に出る体験も増えるかもしれないと思って、月2回の上映にして、なおかつ午前と午後で上映作品を変えたんです。
そうしたら、「この映画を観たくて来た」って選んで来た子がいたり、本当に浴びるように映画を観に来てくれる子もいたり、特にこだわりなく日にちだけ決めてくる子もいたり。もう、その子たちの意思で来るんですよね。
K 自分で関わり方を選んで来るわけですね。子どもたちは日常的に来るんですか?
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