[interview]#8 上原寿香さん/camino natural Lab(山梨県北杜市)※特別編
camino natural Labの上原寿香さんは、山梨県北杜市で耕作放棄地を100年続く森にする「Rewildingの森」という活動をしています。私がその森を初めて訪れたのは2023年の春。森の3種の野草から植物香水を仕立ててもらったのですが、この体験が衝撃で……。詳しくはテキストを見ていただくとして、その感動から、八燿堂が刊行する『mahora』第6号への寄稿を依頼したばかりか、sprout!のインタビューにも出ていただくことになりました。森をつくるとは、どういう行為なのか。たっぷり語っていただきました。
編集・取材・構成=岡澤浩太郎/八燿堂
写真=中緒公志 (except ***)
※インタビューのダイジェスト+αはポッドキャストで公開しています
耕作放棄地を森に戻す
岡澤浩太郎(以下、岡澤) camino natural Labは「Rewildingの森」というコンセプトを掲げていますよね。これはどういう考えなんでしょう?
上原寿香さん(以下、上原さん) 「Rewilding」は直訳すると、「再野生化」、つまり、自然を呼び戻していく方法のひとつです。
「Rewilding」という言葉自体は1960~70年代から国立公園とかが取り組んでいる研究のひとつなんですが、私はその言葉がすごく気に入っていて。自然に対して再野生化するだけでなく、人に対しても同時進行で再野生化しようとしています。
岡澤 おお、人を再野生化する!
上原さん はい。これからは、大きい動きを期待するより、個々でできることをどんどんやっていくのが大事になる時代になってくると思うんです。
私自身、大々的なことをやっているつもりはなく、小さい歯車をどれだけ回していけるかに重きを置いていて。日々暮らすなかでも、どんな変化があるか、100年後や1000年後はどうなっているか、と想像しながら生きています。
岡澤 camino natural Labが発行している冊子には「100年後を見据え、進めています」と書かれていますよね。現在は山梨県北杜市の元・耕作放棄地を再野生化していますが、どんな作業から始めたんですか?
上原さん この土地にそもそも何があるかをぬかりなく調べました。私よりはるか昔から先住民みたいに生息している植物たちや、土壌もPH値を計って。
そうすると、土の性質が見えてくるんです。地上部に「雑草」と呼ばれる植物がいたとして、でもその植物にもちゃんと名前や特徴や性格があって、なぜそこに群生しているのかを調べていくと、すべて意味があるんです。どういう環境になっているかは、植物が教えてくれる。酸性土壌が好き、日なたが好き、水が溜まりやすいところが好き、という植物は、そこにいるわけです。
上原さん 現在は意図的に入れ込んでいる植物もありますが、当初はそこにあるものをどう生かすか、どう継続できるかに重きを置いて、設計図面を書きました。
岡澤 設計図面ですか。
上原さん 「5年計画」「10年計画」ってよくやりますよね。実際にそういう感覚で図面をつくったことがあったんですけど、もう、違和感しかなかったんですよ。10年後だって、できているわけがない。100年後も、ちょっと違う。「もっと先のスパンの話だな」と思って、300年後に設定したら、しっくり来ました(笑)。
岡澤 先ほどの「100年後を見据え」という言葉は、「300年後に向けた最初の100年」という意味合いでしょうか。
上原さん そうですね。ここは耕作放棄地になる前、人間が暮らすことで開拓され、畑がつくられたことが想像できる場所です。開拓をした時点で、森という環境の生態系が一度壊されていることになりますが、一度壊れた生態系をもとに戻すには「1億年かかる」と言われているんです。そんなの無理ですよね(笑)。
でも、人間が100年生きると仮定して、次の世代につなぎながら1000年後、2000年後を思い描いたうえで、「最初の100年間は私が責任を持ってやる」と。そうしたら、たとえ1億年かかるとしても、人間が手を添えることで短くなるかもしれないじゃないですか。例えばここなら、実際に、4年目にフクロウがやってきたんです。
岡澤 すごい! 猛禽類がいるということは、獲物やその食草があるということですよね。
上原さん はい。そうやって、耕作放棄地を100%畑として使っていくのではなく、徐々に森に戻す、お返ししていく感覚で――それを「Rewilding」と言っています――実験を繰り返しながら次の100年に伝える、最前線の現場として進めています。
コラム:世界のRewilding
1000年の森の1日
岡澤 上原さんが日々どんなことを感じて森をつくっているのか知りたくて、八燿堂から刊行している『mahora』の第6号に綴っていただきました。日記のような感じで4つの場面を選んでもらいましたが、これは?
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