[日日月月]7月26日、一人出版社が未来の豊かさに貢献すること
「いま、この時代に爆発的に売れて受け入れられるよりも、200年後の人たちに発見される本をつくりたい」
2018年に八燿堂(はちようどう)という屋号で一人出版社を始めたとき、頭に思い描いたビジョンがこれだった。きっとそのほうが、自分がなした仕事が裏付けられると直感したからだ。
200年後、というのは記号で、500年でも1000年でも構わない。要するに、自分も、子どもも、孫も、いま身近にいる人たちもみんな、死んでいなくなった世界のこと。それが私にとっての「未来」だ。
では、どうすれば未来に届くのか。私は初め、「美しい風景」を本に編んだ。太古から続く歴史や文化、秘跡や里山に残された光景、日々の手仕事やアート。流行に限らず、遥かな年月を経てなお継承され続けるもの。あるいは普遍性を持つであろう、比較や戦略を超えた純粋な思いから産み落とされる創作。
けれども発足から数年経ったある日、こんなことがあった。
息子が、出先でおもちゃを失くしたことがあった。懸命に探したけど見つからなくて、悲しくて、泣いて、静かに静かに、涙がこぼれ落ちた。そのきらきらと光る涙が、私には美しくて、ただただ見とれてしまった。命が輝いていた。
人間の感情のかたまりに触れ、私のなかで、「美しさ」から「豊かさ」へ、キーワードが替わった。私にとって豊かさとは、喜びや楽しさだけではない。あらゆる生命が、喜怒哀楽のすべて、ポジティブにもネガティブにも思うままに揺れ動く、エネルギーの軌跡のことだ。
そして「未来」には、自分が生きる時間も含まれることも知った。土に触れながら宇宙の普遍に思いを馳せるのも構わない。けれども目の前の最愛の人、身近な隣人、地域という社会、それらと接する自分も、「未来」であり得るのだと。
発足から5年後の今年7月からポッドキャストを始めた。広義で「サステナブル」な活動をする人たちにインタビューする内容だが、取材対象は私の住む地域で活動している人たちに限定した。いわばローカル版のポッドキャストだ。
地域で活動する人々の、点と点をつないで地図をつくる。その試行錯誤の美しさが、地図を星図へと変える。ローカルの星図が未来の豊かさへの道標となる。ここから未来を描いていく。
どうすれば未来に届くのか、いまならこう答える。
それはこの一人出版社が、未来の豊かさに貢献することだ、と。
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