放課後まほらbo第七話 自己調整学習の効果
【第七話】
■灘校の教育実践
■求められている力
■まほらboでの効果
放課後まほらboでは、子どもの自立した学習を目指し、自己調整学習の力を大切に育てることにしていますが、その効果はすでに有名進学校でも実証されています。
■灘校の教育実践
最近、灘中学校・高等学校の和田孫博校長のお話をうかがう機会がありましたが、そこでうかがった灘校が重視する教育の内容が大変興味深いものでした。まず教育実践の中心に据えられている「自己の確立」の解説の中でご紹介いただいたのが、建学の精神を表す校訓「精力善用」(自分の長所・短所を自覚、長所を伸ばし短所を克服するということだそうです)の意味でした。まず「自己の確立」は自立した学習者の育成に通じますし、嘉納治五郎先生の教えはまさにメタ認知と肯定的探究そのものだから驚きです。そして、その教育実践のために授業では自分の頭で考える批判的思考力(クリティカルシンキング)を重視していると、最近の授業での実践例をあげながら強調されていました。教科教育だけではなく特別活動を重視し、なかでも学生自治と生徒の自由を優先しているため灘校には制服はないそうです。それどころか校則すらなく、校内模試も廃止されているということにもっと驚きました。戦後の学制変更でも、建学の嘉納治五郎先生の精神が文化として引き継がれているのです。これが東大、京大へ多くの合格者を出す進学校における、学校での生活に根差した精力善用で「学ぶ力」を鍛えた結果です。
●灘校にある嘉納治五郎先生の銅像
■求められている力
つまり灘校では、これまでも授業で主体的、対話的深い学びの教育を実践してきているが、それは具体的には生徒に復習型より予習型の学習サイクルの確立をすすめることであり、教師は授業での「問い」の力を磨き、教師集団には学年団としての学級経営(チームマネジメント力)が求められるというものでした。そのマネジメントによる6年間の信頼の醸成を基盤に、生徒も教師も共に学び浸るという構図が、灘校の高度な教育実践を支えていると、「自己の確立」つまり「学習の自立」を実現できているのだと私は思いました。このように灘校では「自ら学ぶ力」が、高い教育効果を引き出していると私は考えています。この力を「自己調整学習」として、科学的アプローチで意図的に育もうというのがまほらboの取り組みなのです。また、和田校長のお話でもう一つ興味深かったのは、コロナ禍で多くの新たな課題に取り組まれている内容の紹介でした。それがオンラインまほらboの取り組みと符合したのは、たんなる偶然の一致ではないと感じさせてくれるものでした。
■まほらboの効果
和田校長はオンラインでの授業の在り方について、講演に訪れたことのある青森県の風間浦の学校をモデルとして紹介されたのですが、それは教育環境の整備というだけではなく、過疎地教育でこれまでICTを活用した遠隔教育や、複式学級などで蓄積された包摂の教育手法とオンライン活用の可能性を感じ取られた上でのものではないかと感じています。まさにオンラインまほらboで、この4月から3カ月間取り組みの柱にしてきたものです。まほらboタイムの時間を生活の基盤にし、テーマ設定した「算数」「国語」「英語」などの教科学習を、異学年の子どもたちが共に学ぶという複式学級方式で組み立てたのですが、その結果オンラインの弱点とみられる感情伝達などの課題が克服され、学び合う集団として包摂されていく過程が現在進行形で観察されているためです。自己調整学習の力は、個人が学ぶためのスキルを越え、集団として協調していく力にも波及する効果があるかもしれないと私は考え始めています。
これまで自己調整学習とはなにか、その力の3つの要素について考え、役割や効果について触れてきました。
次回からは、「子どもの遊び」について考えていきたいと思います。
それでは。
(みやけ もとゆき/もっちゃん)