海外で届けた私の言葉
私がカナダに住んでいた時の話。
人見知り知らずな温かい人たちとの出会い。
カナダに住む人たちは誰にでも声をかける。
バスを待っていても、電車に揺られている時も
街中を歩きながら思い巡らせている時でも
カフェでたまたま隣に座った人にも。
しかもどんな時も褒め言葉。
たまにお金を求める言葉もあるけれど。
例えば日本から持ってきた靴。
「その靴どこで買ったの?すごく素敵」
通りすがりの男の人や海外のギャルたち。
ジュエリーのお店でお買い物していても
「そのリング可愛いから今度買いたい!」
店員とお客様のマダムから。
バスでくしゃみをすると
遠くに座っていたルービックキューブに
忙しそうなお姉さんが
軽快な声で「Bless you!」
いちばん好きだったのは、
バスの乗客が降りる時にみんな
「Thank you」と言うこと。
前から降りても後ろから降りても
どこからでも叫ばれるお礼の言葉。
なんて素敵なんだろう。って
毎日思いながら過ごしてた。
恥ずかしがって叫べない私。
わざわざ前から降りてこっそり伝えた
小さなお礼。
他の乗客に紛れて無言で降りることもあった。
だけどある時小さな男の子が
モジモジしながら後ろの方で
「THANK YOU」と叫んだ。
しっかり運転手の耳に届いていたし
乗客みんなが優しい目で見守って
こそこそと彼の勇気を讃えてた。
いい言葉なのに
何を恥ずかしがる必要があるのだろう。
大きな声を出すのはとても勇気がいることだ。
だけど伝えないのはもったいない。
そう思ったら無意識のうちに伝えるようになったし
大声で「Thank you」と言いながら降りられた。
その時は「Have a good day」の返事が
いつもより弾んで聞こえたような気がする。
その日は自分の小さな成長にとても気分が良かった。
それから「Thank you」は癖になった。
いつでもどこでも誰にでも、伝えるお礼の言葉。
私のお気に入りの言葉。言う瞬間がしあわせ。
日本に帰ってきても変わらない。
お店でもバスでもタクシーから降りる時も
友達と別れる時も家族との何気ない時間に
伝える「ありがとう」の言葉。
カナダに行けば優しい気持ちになる。
何かを知らない人に伝えるのは
とても勇気のいることだけど
伝えられたら誇らしくて優しい自分になれた。
勇気を出して海の向こう側に渡った私に
毎日不器用に必死に生きる私に
たくさんのことを頑張る私に
大きな声で「ありがとう」。
あ、ちょうど店員さんが
私のコーヒーを運んでくれた。
「ありがとう」