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新学習指導要領「社会科」にあたって

 初めて教育についての話を記しておく。まずは、2022年度から始まる高等学校新学習指導要領において社会科の在り方が大きく変わることは、前述の記事「先輩方の苦労があったからこそ」で簡易に書いてあるのでぜひ読んでもらいたい。引き続き、ここに視点を掘り下げて述べる。以下、昨年ある大学の講義にてレポート提出した内容であるので、あくまで私なりにまとめた学びであると理解して頂きたい。

はじめに
 2018年2月14日文部科学省の中央教育審議会に置いて、次期学習指導要領(平成30年度)改訂(以下、今次の改訂)における方向性が発表された。その内容は、これまでの改訂とは全く異なる大きな変容であり、特に地理歴史科が注目を浴びている。なぜなら、従来の「地理A・B」、「日本史A・B」、「世界史A・B」の6科目構成から新しく「地理総合・探究」、「歴史総合」、「日本史探究」、「世界史探究」の5科目構成と変わったことである。また「世界史」のみだった必修科目を「地理総合」、「歴史総合」の2科目計4単位分とすることへ大幅に改定された特徴が表れている。
 私が着目するのは、「歴史総合」の中で従来の科目「日本史A」と「世界史A」でそれぞれ扱っていた18世紀以降の近現代史を1つの科目として新たに学ぶという全く異なる試みが、非常に関心をもっている。しかし、今次の改訂では数々の問題が含まれていることを指摘したい。それは、改めた数の見出しが改まっていないなどの軽微な部分もある。近現代史の歴史を諸課題の形成に関わる中で考察、構想する科目として記載していることが今次の改訂で明らかになっている。その中の一文を例に挙げたい。
 国語の学問的知識からみていくと、「歴史を・・・構想する」とあるが、意味はどういうことなのか。これは濱川(2020)が述べていた内容と同じ気付きなので、以下の通り、引用する。               『「これから〜しようとする事柄について考えを組み立てること」(スーパー大辞林)「これから〜しようとする物事について、(中略)考えをまとめ上げること」(新明解)と辞書の定義では、こう解釈されている。一方、歴史では過去の出来事を対象とする営為である。そもそも歴史を構想するなど、論理矛盾ではないか。』と挙げられている。
 私が学生の頃は、歴史の基本的な捉えとしては、過去の出来事を詰め込むだけで、諸課題について考察していく機会がなかった。「暗記科目」のイメージとして全く無関心に学習していたために、「歴史を構想する」という濱川さんの述べたような発想は社会科教師を目指すために履修するまで、気づかなかったというのが正直であり、履修するにあたって共感を感じていたところであるといえる。ここに本稿(レポート)のテーマに沿って、次のようにまとめていきたい。
将来の子どもたちに必要な「社会科」を考える
 平成21年に改定された現行学習指導要領は、教育基本法と学校教育法の改正により地域基盤社会においてますます重要となる学力の3要素をバランスよく育む「生きる力」の観点が明記されるようになった。学力の3要素というのは、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」である。現在の高校には「社会科」がなく、「地理歴史科」と「公民科」に分かれていたのは1989(平成元)年の改訂以来ずっと維持していたことだった。しかし今次の改訂により、「目標」が分かれていることをまとめている。
 21世紀の社会は、先述にあったように知識基盤社会であるために近年、情報化やグローバル化といった社会的変化が人間の予測を超えて加速度的に進展していることが伺える。2005年に国立教育政策研究所が行った「教育課程実写実況調査」では、日本史Bの近現代史分野(第一次〜第二次世界大戦期)において、生徒の90%近くが標準的な正答率を下回ったという結果が出ている。つまり、高校生の近現代史の学習不足が表れている。これは、従来の歴史の授業の方向性で、古い時代から順に学ぶ傾向があるために近現代史の内容がおろそかになりやすかったというのが一つの原因である。(国立:2005)また現行の学習指導要領は、「世界史」が必修で「日本史」は選択となっていたことも関係している。
 この状況の中で身につけ、担う人材となるべき子どもたち一人一人が、これからの予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って、かかわり合い、その過程を通して、自らの可能性を発揮し、より良い社会と幸福な人生の創り手となる力を身につけられることが重要ではないかと指摘(文部科学省:2016)し、大幅な改訂に踏み切ったのである。
現行学習指導要領と比較して気づく今次の改訂における問題点
 「はじめに」の部分にて筆者は、『18世紀以降の近現代史を1つの科目として新たに学ぶという全く異なる試みが、非常に関心をもっている。』と述べた。地理歴史科の目標に焦点を当ててみる。「社会的な見方、・考え方を働かせ、課題を追究したり解決したりする活動を通して、広い視野に立ち、グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和です民主的な国家及び社会の有為な形成者に必要ない公民としての資質・能力を次のとおり育成することを目指す。」(東洋館出版:2019)とあり、必修3科目その中の一つとして、「歴史総合」の目標では、【社会的な〜】を【社会的事象の歴史的な〜】に変えた表現だけであることにある。これは、他に日本史探究と世界史探究も全く同じである。また必修3科目の目標は同じであって特色はあまり変わらない。
 君島(2018)によると、「歴史総合」は、世界史と日本史の総合した科目であり、このことは目標の(1)に「世界とその中の日本を広くて相互的な視野から捉え」とあることによって、「答申」を継承している。と述べている。さらに筆者の関心する近現代史のところでは、『現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を理解するとなっている。目標の(2)に「時期や年代、推移、比較する、相互の関連」とあるので、歴史の流れを書けないではないだろうが、これらに着目してとある。歴史の推移は中心的課題ではなく、まさに「着目して」「三つの柱」を学ぶことが目標であるといえる。』と述べている。
 子どもたちの授業(筆者自身の経験を含む)例から「第3章(3)国民国家と明治維新」の内容を挙げたい。18世紀後半以降の欧米の市民革命や国民統合の動向については(中略)、この時期の西ヨーロッパとアメリカ合衆国で、市民の政治的発言権の拡大が進み、立憲体制に基いた国民国家の形成が生まれたことを願う。(東洋館出版:「学習指導要領解説」p.148)これは列強の進出と植民地の形成について、課題(問い)を設定した学習であると汲むことができる。
 ここの部分において、「解説」は本文でいうと、次の(4)近代化と現代的な諸課題において、諸史料を活用する技能を習得するとともに近代化に伴い人々の生活や社会の在り方が変容したことについて考察する。と記載されており、諸課題については自由・制限、平等・格差、開発・保全、統合・分化、対立する・協調などの観点から主題を設定するとまとめられている。((東洋館出版:「学習指導要領解説」pp.152−153)これはすなわち、今次の改訂のポイントで「主題」をどのように設定するのかが重要であることを指していると筆者は考える。二重線部で述べている行為は、生徒が主体的に活動できるものとある前向きに考察したが、教師が求められる力量として『5つの対立する要素全てか、選択的に構想するか。教科書執筆者の力量と授業を実施する教員のどちらか問われるところ』ではないかと君島(2018)は述べている。また『文科省は今次の改訂で、「主体的に、対話的で深い学び」を求めているはずである。このように「解説」で事細かに資料や具体的な授業の進め方を示すことは、むしろその主題に逆行する自体を招くのではないか』と濱川(2020)は異った視点で述べている。
次期学習指導要領の特徴からみる「歴史総合」とは
 筆者は、「主題」そのものの捉え方として、まず本質を見直すことが難しいところだと思うし、教えなければならない教員一人一人が悩むべき問題点だと痛感する。今次の改訂では、「主体的・対話的で深い学び」を重要視としており、アクティブ・ラーニングが今後に必要な指導方法として確立されようとしている。「地理歴史科」では、科目が大幅に変わっておるように見えるが、実際は目標が一つにまとまっただけであり、教える内容を柔軟に視野を広げて指導してみようということだと受け止めている。近現代史を学ぶことは、現代の国際情勢を学ぶ上でも諸外国との関係や世界情勢と切り離して考えることはできないというようにグローバル化への対応として適切に指導できる工夫も可能であることも一つの特徴である。
 私が受けた当時の背景は、学習内容の大幅な削減が行われた「ゆとり教育」の影響、そして詰め込み教育のレガシーで、暗記科目というように単に覚えるだけのイメージで受けていた科目の位置づけだったが、2022年度から始まる「歴史総合」の新設は、時代認識や国際感覚を磨くことにより、社会で活躍する人材を育成していくことが大事だという目的が込められている在り方だといえ、期待していきたいし一方で力量が問われてくるので、覚悟をもっていかなければと思う。
(※ある大学の講義のレポート提出より引用、2020年9月作成)

引用文献
君島和彦(2018)『新科目「歴史総合」とどう向き合うか』、実教出版
<https://www.jikkyo.co.jp/download/detail/29/9992658486> (2020.8.14閲覧)
国立教育政策研究所(2005)『教育課程実写実況調査(平成17年調査)』
<https://www.nier.go.jp/kaihatsu/kyouikukatei.html >(2020.8.14閲覧)
濱川栄(2020)『次期高校地歴科学習指導要領解説に見える問題点』、教育研究実践報告誌 第3巻第1−2(合併号)号、pp.47-56
東洋出版(2019)『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 地理歴史科編』
文部科学省(2016)『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善および必要な方策等について(答申)【概要】』                          
<https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/>(2020.8.14閲覧)

参考文献
文部科学省(2009)『高等学校学習指導要領解説総則編(平成21年告示)』
第一学習社(2018)『新教育課程 2022年度〜高等学校学習指導要領ポイント解説―地理歴史―』pp.15-17
和井田清司他編著(2019)『中等社会科100のテーマ(地理総合・歴史総合・公共)授業づくりの手引き』三恵社、pp12-13、pp126-127

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