あなたの記憶は正確ですか?~記憶の変容について考える
刑事事件では、「目撃証言」が非常に重要になってきます。
目撃証言が唯一の証拠だったりする場合などは特にです。
犯人の顔の特徴、身体の特徴、事件の経緯など、様々な点に渡って、目撃者は証言を求められます。
しかし、そのような目撃証言の内容は、本当に正確なものなのでしょうか?
この点、ロフタスとパーマーの研究が参考になります。
その研究とは、記憶の想起は、保持した内容をそのまま再現する過程ではなく、想起時に情報の再構成がなされているという可能性を示した研究なのです。
これについて、以下のような実験が行われました。
それは、自動車事故の映像を被験者に見せる、というものです。
その際、被験者には、自動車事故の瞬間の映像の記銘を求めることをせず、後でその映像についての想起をしてもらいました。
この点、被験者に自動車事故の瞬間を想起しもらう際に、実験者が、①「自動車同士が”衝突”した瞬間に・・・」という文言を用いて聞き取るか、②「自動車同士が”接触”した瞬間に・・・」という文言を用いて聞き取るかの違いにより、想起される内容に違いがあることが判明したのです。
①「衝突」という文言を用いて尋ねられた被験者は、自動車のスピードを比較的速く見積もり、また、自動車のガラスが割れて割れていたと報告する者が多数出ました。
他方で、
②「接触」という文言を用いて尋ねられた被験者は、自動車のスピードを比較的遅く見積もり、自動車のガラスが割れていたと報告する者は少数に留まりました。
この点、最初に見せた映像では、実際には自動車のガラスは割れていなかったのです。
このような結果から、被験者は記憶を想起する際、実験者の言葉をヒントに情報を再構成し、実験者の言葉に沿った内容に作り上げた情報を「思い出す」ということを行っていることが示唆されたのです。
このように、長期記憶に保持された情報は、あまり明確な内容を持っていないということが証明されたのです。
これを目撃証言に当てはめて考えれば、相当恐ろしい結果になることが分かると思います。
取り調べた刑事や検察官の教示の仕方の違いによって、目撃者の証言内容を変えることができるわけですから。
このような、記銘後に提示された刺激(情報)によって、想起内容にその影響が表れる現象のことを「事後情報効果」と呼びます。
刑事事件の実務上、本気で考えて行かないといけな実験結果ですね。
ということで、今回は「記憶の変容」をテーマにして書いてみました。
「記憶」に関しては、他にも重要な実験や理論が存在していますので、それらについてもまた書いてみたいと思っています。
最後に、「記憶」といえばこの人!
「忘却曲線」でお馴染みのエビングハウスです。
では、エビングハウスの言葉で締めくくりたいと思います。
「心理学の過去は長いが歴史は短い」
ですので、いま心理学を学んでいる僕たちこそが、その歴史を作っていかなくてはならないのです。
それぐらいの気概を持ってやっていきたいものですね。
それでは一旦この辺で!