祖父の葬儀に来た坊主がニセ坊主だった話(戒名検証編の追記あり)
先日、2人の伯父(母親の兄と弟)と3人で食事する機会がありました。
2人とも60歳を超え、話題は自然と『墓じまい』に。するとその流れで20年ほど前に亡くなった祖父の話になりました。
兄が「いやー、親父の時は大変だったね。坊さんがニセ者ってわかった時には本当にびっくりしたもんね」とポツリ。
え?なにそれ?ニセ者?全く話についていけません。
1人でめちゃくちゃ動揺していると「あれ?知らない?」と驚いている2人の伯父。
話をまとめるとこうでした。
・祖父の葬儀の時に来ていたお坊さんはニセ坊主だった
・お寺に葬儀の連絡をしたときに電話を取った事務のおじさんが、お坊さんに扮してお経をあげて帰っていった
・葬儀から1年後、お寺に「一周忌法要を…」と連絡したところ、先方が大慌てになり「うちの事務員でした」と謝罪
信じられません。なにより驚いたのが「戒名もニセ坊主が適当につけたもの」だったことです。
祖父にとって僕は初孫でずいぶん可愛がってもらいました。祖父の家から帰るとき「おやすみなさい」と言うと必ず「グッナイ」と英語で答えるのに、ティッシュのことを「ちり紙(ちりし)」という、モダンなのか古風なのかわからない人でした。
祖父が亡くなったのは僕が大学生の時で、病気で入退院を繰り返していたので、なんとなく最期が近いことは悟っていました。亡くなった日は一晩中ろうそくの火が消えないように弟と見守りました。何もできない孫なりの、祖父へのお返しでした。
その翌日の葬儀で長いお経を読んでいたのがニセ坊主だったなんて。
時は流れて2023年。正月休みを利用して、実家に帰省しました。目的の9割はニセ坊主事件の詳細を聞くためです。
まずは祖母の家へ。もう戒名が気になって仕方ありません。戒名は長いほど高額だといいます。
祖父の仏壇に手を合わせて、この1年間の報告とまた1年見守ってほしいと心の中で伝えたあと、位牌に刻まれた戒名をパシャっとスマホで撮影。
じいちゃん、許して。というか、これニセ坊主がつけたって知ってた?天国で(地獄の可能性もゼロではないけど)イジられてない?
祖父のものは一般的なものより文字数が多く、高額だったようです。
ニセ坊主は戒名を付けるときに「おっしゃ…!文字数多い…!」と震えたことでしょう。激アツ大当たりが来たのです。カイジ顔負けの「ざわざわ…」だったはずです。
祖母、そして両親にゆっくり話を聞きました。
葬儀の連絡をしたときに電話を取った事務のおじさんが、お坊さんに扮してお経を読み、戒名を付けた。もちろん誰も気づかずスルー。
その後、個別に連絡をとり定期的にお経をあげに来ていたというニセ坊主。いったいどんな気持ちでお経をよんでいたのでしょうか。毎回カイジばりのギャンブルのテンションで祖母の家を訪れていたに違いありません。
お経は「歌」にも例えられます。僕らが聴いていたのは、さしずめアーティストのライブではなく素人のど自慢だったというところでしょうか。毎回高額のお金を払って聴く、素人のど自慢。これが地獄と言わずして何が地獄でしょうか。
1周忌のタイミングで改めてお寺に連絡したところ、まったく話が通じず、お寺の事務のおじさんがお坊さんに扮していたことが発覚。そのニセ坊主はすでにお寺から去っており、お寺側は平謝り。当たり前です。
もちろん家族は騒然となりましたが、祖母は「もう1年経ってるし、供養もちゃんとしている。事を荒立てなくていい」と話し、警察に届けたりはしなかったそうです。
一連の話を終えた母親は「一周忌以降は、ちゃんとしたお坊さんが来てくれてるんよ」と言いました。当たり前や。
祖母にも話を聞いたのですが「そんなこともあったねぇ」と目を細めるばかり。人生90年を超えると、もう過去は水できれいに洗い流せているようでし
た。
葬儀から20年以上経って初めて知った祖父の葬儀の真実。
皆さんが頼んだお坊さんは、本当にお坊さんですか…?
ちなみに、戒名は『仏の弟子になった証』『仏の世界の入場許可証』だそうです。ニセ坊主がつけた戒名を持って並んでいた祖父は、まだ仏の世界に入れていないかもしれません。
いつになるかわかりませんが、僕があの世に行ったときは、祖父の事情を説明して一緒に仏の世界に入れてもらおうと思います。
<戒名検証編>
この記事をアップしてからの数日間で、かなり多くの方にご覧いただきました。ありがとうございます。
Facebookでも記事を貼ったところ、ある上司から「戒名の出来具合は検証したんですか?」というコメントが。
確かに気になります。
ただ「ことを荒立てたくない」というのが発覚当時の祖母の意向だったので、検証することで「せっかく水に流したのに、なにドブさらいして掘り起こしてくれてんだ」となる可能性もあり、少し迷いました。
そもそも誰に検証してもらえばいいんだ…と思いながらFacebookを眺めていたら、あることに気づいてハッとしました。
中高時代の同級生がお坊さんになっていて、Facebookで繋がっていたのです。
とはいえ中高時代にほぼ絡みはなく、Facebookを僕がほぼ開かないこともあり、高校卒業以来まったく交流がありませんでした。
そんな奴のおかしな話を取り合ってくれるだろうか。「不謹慎な奴だな!帰れ!」と罵倒されるかもしない。罵倒こそされずとも、スルーされて当然…と思いながら「記事を読んで、もし可能なら戒名を見てもらえますか?」とメッセージを送ってみました。
すると返信が。
「笑っちゃいけないんでしょうけど、むっちゃ面白く読みました」
「戒名についてもわかる範囲で答えますよ」
ありがたい!仏様くらいありがたい(ややこしい)!とまさかの返答にテンションの上がる僕。戒名は宗派によっても違うし、厳密な検証ができるかはわからないけど…とのこと。『戒名ジェネレーター』なるものが存在することも教えてもらいました。(気になる人は検索してみてください)
お言葉に完全に甘えて、帰省した時に撮った戒名の写真を送付。
すると…
「戒名、全然問題ないです。ニセモノのお坊さんがつけたとはとても思えない、立派な戒名です」
「使われている文字も仏教的な意味合いが正しく込められています」
とのこと。『愛羅武勇』みたいな当て字だったらどうしようと思ってましたが、とてもホッとしました。
加えて「ニセモノとはいえ、それなりの見識があった方なのかなと思います」とも。自分では絶対わからないことです。検証してもらって感謝しかありません。
ちゃんとした戒名を携えてじいちゃんはあの世に行ったんだな…と思ったのもつかの間。
これって、あの世で『めちゃくちゃ精巧なニセモノ掴まされた奴』みたいになってるんちゃう?
という疑問が湧いてきました。よくブランド品がらみでニュースになるやつです。
仏の世界に入るゲートで引っかかって、祖父も「え、これニセモノなんですか?」と困惑してるかもしれません。
もしそうだったら、僕があの世に行った時に「ちゃんと検証してもらったんで!」と丁寧に事情を説明しようと思います。
(同級生のお坊さんには記事に書くことを了承してもらっています)
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