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信じたいものを信じるもの(失敗の科学/マシュー・サイド)

読み終わった後で、この人の本を読んだことがあったと気づいた。

本書の副題は「失敗から学習する組織、学習できない組織」。
冒頭で出てくる医療ミスと飛行機の操縦ミス(どちらも読んでるだけでハラハラする)のケースでは、いずれも途中でミスに気づいた看護師・副操縦士がいたが、彼らは上下関係を気にして自分の意見を主張できなかった。問題は当事者の熱意やモチベーションではなく、人間の心理を考慮しないシステムにある。

医療ミスは、「不測の事態」として隠蔽されやすい。人の手で行う分ヒューマンエラーが多いし、失敗は不名誉なものと決められている。医師が「最善を尽くした」と言えばそれで済んでしまう。一方、航空事故はさまざまな調査が入り、報告書は一般公開される。パイロットが自由にアクセスし、失敗から学べるようにだ。
ルーズベルトの夫人の言葉「人の失敗から学びましょう。自分で全部経験するには、人生は短すぎます」が印象的だった。失敗の捉え方を変えなくては、パフォーマンスの改革は起きない。

戦時中、爆撃機を強化させるために、欧州の軍は爆撃機の損傷箇所を調べた。データをとればとるほど、コックピットと尾翼には砲撃を受けた形跡がないというパターンが明らかになった。だからそこ以外を強化すればいいと判断されかけたとき、ウィーンの天才数学者が反対した。
そのデータには”帰還しなかった(撃ち落とされた)”爆撃機は含まれてなかったからだ。事実は逆で、”コックピットと尾翼を撃たれなかったから”帰還できたのである。

人は自分が信じたいものを信じるものだ。
失敗から学ぶためには、目の前に見えていないデータも含めた全てのデータを考慮に入れなければいけない。加えて、注意深く考える力と、物事の奥底にある真実を見抜いてやろうという意志が不可欠だ。

同様の例として、印象深かったものは以下。
・中世の医師が瀉血という治療法を続けていた。瀉血を受けたグループの中には確かに回復した人もいたが、本当は瀉血を受けなかったグループの方が生存率が高かった。
・非行少年少女に刑務所を見学させると、再犯率が下がったとメディアで取り上げられた。だが長期スパンで彼らの動向を追ったところ、むしろ犯罪率は上がっていた。
・カルト集団は教祖の未来予想(世界滅亡)が外れたとき、呆れて信者を辞めるか?という実験。答えはNOで、むしろ「教祖が世界を救ってくれた」と歓喜に酔いしれていた。人は自分が頭がよく筋の通った人間だと信じたい。そのために不都合な真実を曲げてしまう。

最後に、ビジネス的な失敗へのアプローチとして紹介されていた「事前検死」という方法が面白かった。
プロジェクトが終わったあとではなく、実施前に失敗した想定で「なぜうまくいかなかったのか?」をチームで検証していくものだ。
メンバーはプロジェクトに対して否定的だと受け止められることを恐れず、懸念事項をオープンに話し合うことができる。
プロジェクト責任者の「プロジェクトは大失敗しました」という一声から始まり、メンバーは失敗の理由を一つずつ発表し、理由がなくなるまで行う。
確かにこれはあらゆる負の可能性を潰す一手になりそうだし、個人的にもやってみたいと感じた。

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