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奇術積読宣言のマジックレビュー

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古今東西のマジック・手品について、主に洋書を中心にレビューしています。
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#マジシャン

Review#23:ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険 (Florian Severin)

いやー、面白かった…。私はメンタリズムやメンタルマジックは全くの初心者であることと、本自体が少々分厚かったこともあり、自分の中で後回しにしてしまっていた本ですが、やっと読めました。もっと早く読んでおけばよかった!そう思わされるくらい、面白かったです。 本でマジックを解説するならこうあってほしい、という理想の形で、手順と解説だけで終えず、様々な角度から考察や、彼がその手順に至った思考を余すことなく記述してくれています。しかもその内容が鋭いので、読んでいて知的に興奮します。ここ

Review#22:Encore (John Graham)

アメリカのマジシャン&メンタリスト、John Graham(ジョン・グラム、でしょうかね。グラハムでも良さそうですが)による「マルチプル・セレクション」と呼ばれるカードマジックのプロットを扱った本です。 John Graham自体はほとんど知らなかったのですが、彼はVanishing Inc.社から"Stage by Stage"という本を出しており、そこではショーの構成の仕方やトリックをいかにショーアップしていくか、といったことが語られているそうです。持ってないので確認でき

Review#21:Letters from Juan vol.6 (Juan Tamariz)

いよいよ最終巻。虹の色が日本は7色ですが、西欧では6色の国も多く、ゆえに6巻で終了です。vol.6は、トリックそのものの不思議さは失速した印象はありますが、学びの観点からはとても得られるものが多い内容でした。ということで走りきりました! Rafael Benetar氏が全編英語に訳してくれたことに改めて感謝です。 Letter from Juan (序文)マジシャンがトリックについて議論する際に、秘密(タネ)の部分に注力してしまい、肝心の現象(効果)の部分をおろそかにしてし

Review#20:Letters from Juan vol.5 (Juan Tamariz)

全6巻のうち5巻目で、今回は紫。かなり面白かったです。Letters from Juanはどんどん面白くなってる気がします。いよいよ次回は最終巻です。どうなるんでしょうか。早速内容にいってみましょう! Letter from Juan (序文)タマリッツがとんでもない生活リズムであることや、孫がヨーヨーアーティストであること(なお孫のダニエル・タマリッツは大阪で開催されたヨーヨー世界大会で優勝、グランプリ獲得しています)などのアイスブレイクではじまります。 タマリッツが、客

Review#18:Handcrafted Card Magic volume 3 (Denis Behr)

Conjuring Archive設立ニキことベアニキの(一部ネットの手品民が勝手に呼んでいる)愛称でおなじみ、Denis Behrの著作、Handcrafted Card Magicの3巻です。なんとこの本が日本語で読めるようになりました。 ベアニキの本、というだけで買って間違いないわけですが、いやはや、すげぇ本でした。読んでて「賢いな」と何度も思わされます。 個別の現象については、訳者さんのブログをご覧ください。 どうやら今回は印刷部数が他の訳本より少ないとのことで

Review#17:ユージン・バーガー マジック・コレクション(Eugene Burger, Richard Kaufman)

いやぁ、面白かった!そして、少し値は張りますが、原著でなくこの日本語版で読む意味がありました。 前提として、私はユージン・バーガー氏の著作は(英語でも)読んだことなく、パフォーマンス映像はスクリプト・マヌーヴァから出ているDVDを少し見た程度。コンベンションにおいてショーは拝見したことがありました。ビザーマジック自体は学んだことも見たこともほぼない、という背景です。そんなユージン・バーガー初心者の私にとっても、バーガー氏の思想や彼の演技のブラッシュアップの仕方、それらが学べ

Review#16:LA CAMPANELLA (Shimpei Katsuragawa)

日本を代表するマジシャン、桂川新平氏による英語の本です。全日本人マジシャンが「日本語版はまだか!」と思い続けていると思いますが、出る気配がなさそうなので読みました。ところで、なぜか本の感想やレビューが一切ネットに出回っていないです。不思議ですね。 桂川新平さんが素晴らしいテクニックをお持ちで素敵なマジシャンであることは疑いようがない事実です。その彼の作品やテクニックが解説されているということで期待もありました。 ですが、結論から言うと、この本は万人にオススメはしにくい、と

Review#15:『大原の◯◯』シリーズ(大原正樹)

今回のレビューは私にとっては思い出深いレクチャーノートでもあるので、かなりバイアスがかかっております。という前提があるとご理解いただいた上で、ぜひお読みください。 どういうバイアスか。出身大学手品サークルの先輩であり、入学当時にOBゲストで何度か演技を拝見し、レクチャーまでやってくれてそれらを自分もたくさん練習した、という経緯があります。もう何年も前ではありますが、そのような過去があるため、あんまりフラットじゃない、と但書をしておきます(予防線)。 さて、今回は今から10年

Review#14:FURTHER IMPUZZIBILITIES (Jim Steinmeyer)

Jim Steinmeyer氏のセルフワーキングかつインタラクティブなマジックを掲載したシリーズの第二弾。2006年初版発行。 第1巻のレビューはこちらになります。 タイトルだけでも興味深いこのまま全巻レビューするかのような書きぶりですがそんなことはありませんw(謎の宣言) 2023年6月時点で発行されている全10巻、タイトルを見るだけでも英語の勉強になります。subsequentやensuingの厳密なニュアンスの違いとかあんまわからないので、タイトルの面白みが味わいき

Review#13:IMPUZZIBILITIES (Jim Steinmeyer)

研究家としても名高い、Jim Steinmeyer氏によるセルフワーキング小冊子シリーズの第1巻、Impuzzilibitiesです。 2023年6月時点、全10巻発行されています。学生時代に米国でインターンをしていた際、当時6巻まで出ていたImpuzzibilitiesシリーズを全買いした記憶。タイトルは”Impossibilities”と”puzzle”の合成語、でしょう。 なおMAJIONさんにて第8~10巻が販売されているようです。いつか読む(積読宣言) 2巻はこ

Review#12:Letters from Juan vol.3 (Juan Tamariz)

タマリッツからの手紙シリーズ、vol.3です。全6巻で、どうやら毎月発売するつもりらしいので、折り返し地点まで来たことになります。しかし昨今のPenguin Magicの動きを見ていると、最終的に全6巻を1つのハードカバーにしたデラックスエディションを発売してきそうですよね。さて、vol.1とvol.2は既にレビュー済みですのでそちらもよろしくです(vol.1・vol.2) vol.3まで読んでほぼ確信に変わったのですが、この本を読み色々と学び取り理解するには、アスカニオの

Review#11:マジック・トランプ史 (和泉圭佑)

今回は、洋書でもトリックを解説した本でもありません。ひと味違う、そして非常にユニークなテーマの本です。それは、『マジック・トランプ史』。知的好奇心が満たされ、読後の満足感のも高い本でした。 ここで一つ、念のために伝えておきたいことがあります。私自身はデック蒐集家でもないし、詳しいわけでもありません。「フォンテーン、なにそれ?」という程度には無知です。ただ、「ジェリーズナゲットのモダンフィールは好き」くらいのことは言えます。まぁ、それくらいの程度です。従って、この本の内容の真

Review#10:Letters from Juan vol.2 (Juan Tamariz)

タマリッツ(Juan Tamariz)というマジシャンは、私のマジック人生においてとてつもない影響を与えた人です。 大学入学後、サークルで、FISMに出た先輩からタマリッツがすごい、という話を聞き、当時手に入る映像をいくつか見ました。正直、凄さがあまりわからなかった。エアバイオリンをやるヤバい爺さん、くらいのイメージ。 タマリッツの思い出2012年、当時まだ私は大学生でしたが、生のタマリッツを手品雑誌Geniiのコンベンション@フロリダで見ることができました。ヤバすぎて、叫

Review#9:52 Lovers (José Carroll)

とりあえず何も言わず、読みなさい。そんな本でした。 読んでいるときに何度もうっとりし、こんなカードマジックを演じてみたいなぁと憧れる、そんな本です。 それでも別に俺はいいや、という人は、まずこの映像を見てみてください。こんな素敵なマジシャンが書いている本なのだから、内容も良いに決まっているじゃないですか。(右はTamariz。左がCarroll) 確かに、本書で紹介されているトリックは、演じるには道具の入手の度合いや難易度がハードルが高すぎるきらいもありますし、現代から