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Review#15:『大原の◯◯』シリーズ(大原正樹)
今回のレビューは私にとっては思い出深いレクチャーノートでもあるので、かなりバイアスがかかっております。という前提があるとご理解いただいた上で、ぜひお読みください。
どういうバイアスか。出身大学手品サークルの先輩であり、入学当時にOBゲストで何度か演技を拝見し、レクチャーまでやってくれてそれらを自分もたくさん練習した、という経緯があります。もう何年も前ではありますが、そのような過去があるため、あんまりフラットじゃない、と但書をしておきます(予防線)。
さて、今回は今から10年ほど前に発行された大原正樹さんによるレクチャーノート群(『大原のおすすめ』『大原のこだわり』『大原のこころみ』)です。
このたびMAJIONさんより、電子版として再発売されました!『大原のこだわり』というノートでは加筆修正されている、ということで、現物を持っていましたが購入しました。
なお、加筆修正部分は、「オールバック」の手順と「49カード・トゥ・ポケット」の手順です。写真もそこだけカラーになっています。
大原さんのブログも紹介しておきます!
「考察」パートで読者にも考える余地を与えてくれる
このレクチャーノートのいいところは、(MAJIONさんの紹介文と内容は重複しますが、)①「考察」というコーナーが毎回設けられていること、② 「原理、戦略」という名で暗黙知が言語化されていること の2点です。
①解説フォーマットに「考察」というコーナーが設けられている
すべてのトリックの解説に「考察」というコーナーが設けられています。そこでは、例えば、なぜそういうハンドリングにしたのか、という理由や経緯等も含めてまとまっています。
マジックを本で解説する意義は、このような作品の経緯や意図を丁寧に説明できる余地をつくり、読者が自分のスピードでそれを摂取して、批判的に考えるきっかけを与えられること、だと私は考えています。(映像はスピーディに情報を提供したり摂取したりできますが、じっくり考えるにはあんまり向いていないな、とは思います)
このnoteを読むような方は既に持っているであろうHarapan Ong著 “Principia”を思い出した人もいるかもしれません。あの本の解説フォーマットには”Analysis & Discussion”や”Conclusion”というコーナーが設けられており、作品の発展可能性や課題を自己分析しています。それに近いものを感じます。(Harapan本は日本語で読めます。なんということでしょう。)
② 「原理、戦略」という名で暗黙知が言語化されている
手品の理論、と呼ばれるものの多くは難解です。「理論」は名人たちが無意識に行っているような「暗黙知」を、普遍的に使えるようになんとか言語化したもの(特にアスカニオは、Kapsなどの名人からの分析です)であり、その定義上、言語だけで理解することが厳しいものでもある、と私は理解しています。
ただ、このノートでは、クリアに言語化された暗黙知がまとまっており、それが理論という大仰なようなものでなく、Tips的にまとまっており、読者にとってはとっつきやすいものになっています。MAJIONさんの紹介文の言葉を借りれば、「理論への橋渡し」となるような記述。
大原さんが箇条書きのようなかたちで「原理、戦略」と称して紹介してくれており、「あー、これはアスカニオのミスディレクションの理論につながるな」とか、「トミー・ワンダーのやつに近いな!」とか考えるのが楽しいです。(良い復習にもなる。)
ということで、学習者にとって、とっつきやすさと考えるきっかけづくりとして、このノートは最適です。私は大学入学して手品をしばらく学んだタイミングでこのノート(と大原さん)に出会い、ちょっとレベルアップした感覚を覚えました。まとめられている「戦略」と呼ばれるものが、明確に上達につながります。あとおぼろげながら、将来書くならこういうノートを書けるようになりたいなぁと思った覚えが。
改善してほしい点としては、クレジットですかね。丁寧に言及されている場合とそうでない場合があり、まちまちです。ゆえに文献をたぐりよせるのが難しいものもあります。この本が、基本的には親切な書きぶりなだけに、学習者視点だとちょっともったいないな、と思いました。
作品の難易度もほどほどであり、レパートリーを探している人にもとてもいいノートです。実際、この中のいくつかは私は今でも演じています!
全部オススメなのですが、私が好きな作品を紹介して終わろうと思います。
『大原のおすすめ』より
Mixture
一時期、好んで演じていた3枚のコインの変化現象です。「戦略」がうまくハマった作品で、サクッと演じるのにとても向いています。
1234
たぶん一度習得したら忘れない類のコイントリック。リズムが大事。覚えておくと重宝しそうです。
M.O.S.P.
オレの青春。実際に見せていただいて、あまりに自然すぎてとてつもなく練習したパスです。私はほぼこのパスしかもうやらないほど(笑)ハーマン・パスのバリエーション、といえばそれまでですが、解説がとてもよいです。ポイントを抑えた解説が素晴らしい。
『大原のこだわり』より
All Back
MAJIONさんの紹介に魅力が書いてあるので割愛ですがホント同意。オールバックという現象自体は好きじゃなかったのですがこれはやってみようかなと思いました。
49 Cards to Pocket
元だけでも十分よかったのですが、今回追記されたアイデアがよく、笑えるものになっています。
Fake Out & Cutter Knife
Scotty York原案で、Fred Kapsも演じていた、デックがバラバラに切り刻まれるマジック。それがかなり負担低く演じられます。セットアップも工夫がしてあってよいです。一時期好んで演じていました。トリネタに十分なるようなインパクト。
『大原のこころみ』より (※1作品のみ収録)
Birth
考察がもりだくさんすぎる。このノートは1作品のみですが、考察パートがかなり充実しています。非常に考える余地を与えてくれます。
あとトリック自体は、マジシャン側もやってて楽しいんですよね、これ。なんかハラハラ感もあるし。ただ、とある理由により観客が逆算しやすいのではないか、と思う部分もあり、構造上の弱さがある気がする。あと、自分ではしっくりくるパターが思いついていません(びっくり箱感が強いからかな…) ですが、実際演じてみると普通にびっくりされるので、杞憂っぽいです。
ということで、提灯記事みたいになっていますが、思い出のレクチャーノートなので久々に読み返し、やっぱり良いな、と思ったのでご紹介しました。日本語ですしかなり読みやすいのでマジでおすすめです。