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小気味良くて、よござんした。

これは、瓶の蓋が開かないと腹を立てたことを大げさに綴っただけの
記事です。
「読んだ時間返せ」とならないよう、先にお伝えします。

~ お急ぎの方へ ~


私はジャムが食べたかった。


こんがり焼いたトーストに
たっぷりとろりと乗せて。

冷蔵庫から取り出したジャムの瓶は
冷え切って蓋が固まっていた。

力いっぱい蓋を回そうとするが
うんともすんとも反応しない。

固く絞った濡れ布巾で回してみる。

開かない。


輪ゴムを使ってみる。

ドライヤーで蓋の部分を温めてみる。

それでも開かない。


少し苛立ちながら
気を取り直して
もう一度最初から試してみる。

やっぱり開かない。

私はこの蓋に何分かけてるんだ…
イライラが風船のように膨らむ。

何で開かないのっ⁉

ちょっと大きめの独り言が漏れる。

そうだ、最後にこの蓋を閉めたのは二男たね二郎に違いない。

たね二郎は週に何日か帰ってきて過ごす。
確か、そのとき食べてたはず。

あいつは力加減というものがわからないのかと
憎たらしくなる。
蓋の締め方もきっと少し斜めになったまま
無駄に力まかせに締めやがったんだ。

腹が立つと
その怒りのエネルギーで更なる力が湧いた気がして
たね二郎に毒を吐きながら
息を止めて全身の力を握力に込める。

ん”ーーーッ…!  

開かないっ!!!



頭に来て瓶を床に叩きつけたくなるのを
ぐっとこらえ…

…きれず
代わりに濡れ布巾を床に叩きつける。


ぺしゃ


布巾は床に潰れた。



瓶だと、もし割れたら
後片付けに困るのは自分だから…

頭に来ててもそういうことは考えている。

おのれの器の小ささが悲しくなるわ。
…器って何?
これは人徳の問題なの?


ーー なんかわかんないけど、すいませ~ん ーー

床にへしゃげた濡れ布巾は床で
しょんぼりしているように見える。

何をやっているんだ、私は。

こういうの、八つ当たりっていうんだよ。
いじめの構造ってこういうことなのよ。

自分のいら立ちを弱者に向ける
ああ卑劣。

情けない。



私はジャムが食べたかっただけじゃないの。

その瓶の蓋が固くて、開かなかっただけ。

気付けばジャムはどうでもよくなっていて
私は蓋やたね二郎に腹を立てて。

私はいったい、
何にクレームをつけているのだろう。

もしかしたら
蓋でもたね二郎でもなく、他の何か
抑圧している不満の投影かもしれないのに


なのに、布巾に八つ当たり。


「ダメねー、開かないわ」
「私の力じゃ無理だな」

「ジャムが食べたかったな~、残念」

「そうだ、いつか100均ショップで見かけた
蓋を開ける、あの便利グッズ買っとこうかな」

「今日はバターにしておこう」


ーーー それでおしまい、でいいじゃない。
    何をカリカリしてるんだろう。


ごめんよ、布巾。

きっとキミのことは
ボロボロになるまでちゃんと使うからね。

今のことは水に流してくれないかな…

拾い上げたタオルを流しで洗いながら
ちょっとうまいこと言ってみるけど虚しい。


そして虚しい私はジャムとも距離を置くことに。
(ジャムにしてみれば「は?」ってカンジだが)

瓶の口が「は?」と言ってるみたいに見えてくるw



数日後、たね二郎が冷蔵庫からジャムを取り出す。


(さんざん手こずるのを見届けてから
それから文句を言ってやろう)

横目で様子を伺う私。

何も知らない二男は淡々と
冷えたジャムの瓶を左手に持ち替え、
右手を蓋にかける。



カポッ




軽やかな音を立てて、蓋は秒殺。


「え?」


息を吞んで見ていた私は
小さく声が漏れた。

「え?」
私を見るたね二郎。


「え?」
返す言葉が浮かばず同じ音のリフレイン。


「何?」


(あんたってスルーしてくれればいいときには
二度聞きしてくるとこあるよね。)


「あ…いや…カポッと開いたな…と思って」
苦し紛れに。

「ああ、これ?
蓋の開くときの音ってええよな~

小気味いいっつーか ♪」


こともなげに
スプーンにたっぷりのジャムをすくって
トーストにとろ~りと落とすたね二郎。


ああ、そう。
小気味いい音が聞けてよかったね。

おいしそうだね~…




Why  ジャパニーズたね二郎!!!






心の叫びを刻んで
では また。












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