見出し画像

「時空を超えて出逢う魂の旅」特別編 ~琉球⑧~

神の取り計らいで、ノロ(神女)として生きる「光」。を
龍神の招きで光は、朝日昇る海近くの御嶽に籠る。
その御嶽で、仏と共に生きる男性、”僧侶様”と出逢う。
美しい自然の中。光と僧侶は、互いの心を通わせる。

陽の輝きに、ゆっくりと穏やかな陰りを感じる。
山向こうに、日は沈みつつあるのだろう。
藍の空が広がってきた。
夕刻が極まると、夜。

光と僧侶のいる御嶽は、日出る海にのみ面していた。
そのため、日沈むことがなく、月出る空が訪れる。
その日は、月が出る前に、星空が広がっていった。

空に墨色広がる様を、光は、僧侶と共に眺めた。
そういえば、今回御嶽に来て以来、龍神様は未だお出にならない・・・。

”星が出てまいりましたね、光様。”
聡明さあふれる、柔和な僧侶の笑顔。
さらに幾分、洞窟の奥へと体の位置が離れている。
おそらく僧侶は、若き女性の光に気遣っているのであろう。
ましてや光は、しきたりに従い、御嶽では白い単衣一枚のみ。
この時代、それは裸に等しかった。

”ええ、僧侶様。星は、美しいこと。
今晩、月は後ほど出るようで。”

光はそっと、洞窟の先に歩み、夜空を眺める風を装った。
実は光も、仏僧である僧侶に気遣っていた。
僧侶は、女性に近づいてはならぬはず。
さらに、僧侶は逃亡のため、目立つ隣国風の法衣を捨てていた。
薄い単衣からどうしても、骨格の良い体躯がうかがえてしまうのだ。

”何とも、煩わしい・・・”
二人は、ハッとした。
うっかり同時に、自分の心の内を漏らしてしまったからだ。
光は、そのまま夜空に目をやっていた。
僧侶も、それに倣った。
二人が見ていたものは、夜空ではなかったようだ。
しかしその夜空も、とても美しかった。

画像1

僧侶は、非常に色々なことを知っていた。
かすかな星明りの下、洞窟の地面に図を書きながら、
星、月などの天のこと、それに伴う隣国の暦について語った。

光はそれらを、とても興味深く聞いた。
祭祀を行うため、自然界のある程度のことは体得していたものの、
それぞれの関りと、人々の生活への結びつきを体系的に知るのは
初めてだったからだ。

”実に面白きことです。私達は、私達だけで生きていない。
天に抱かれているのですね。それを実感します。”

光のその言葉に、僧侶は深く頷いた。

”全てのものは、関わり合って在る。
正にそうなのです。
そして私共も、この関りに欠かせぬ存在なのです。”


「僧侶様、私は、どんな関りに欠かせぬのですか。」
光はそっと、僧侶に問うてみたかった。
しかし、自分の内にだけ、留めておいた。

星の瞬きに、月明かりが差す。
甘やかな半月のお出だ。
これから、さらに欠けゆく月。
その月の神に促されて、光は僧侶に語った。

画像2

”僧侶様。
明日夕刻、私の暮らす屋敷から、使いの者がここに参ります。
しきたりで、その者は御嶽の中にいる私を見ることは、ありません。
そして、さらに2日後夕刻。
再び、使いの者がここに参ります。浄めを終える私の迎えのために。”


光は、言葉に詰まってしまった。
これから先をどのように語るものか、定まっていなかったからだ。
色々な感情が、沸き起こる。
あの屋敷に、私は戻る予定である。
しかしその前に、たった一日だが、光は何年分に及ぶ経験をした。
それを胸に秘めたまま、あそこに戻らないといけないものなのか。

沈黙を、そっとやさしく僧侶は遮った。
”光様。
貴女様には、深く、感謝しております。
わかりました、明日夕刻までに、私はここを失礼いたしましょう。”


そして、僧侶は言葉に詰まってしまった。
これから先をどのように語るものか、定まっていなかったからだ。
色々な感情が、沸き起こる。
どこに私は行き、戻るつもりなのか。
たった一日だが、僧侶は何年分に及ぶ経験をした。
それを胸に秘めたまま、一体、何処へ。

下弦の月は、光包んでいた。そんな二人を。

画像3

いつのまにか、暁の頃だった。
光は、僧侶に伝えようと心を定めた。
どうかあと2日、自分が御嶽にいる間、ここにいて欲しいと。

しかし先に、僧侶が光に語った。
”光様。やはりもうしばらく、ここにいてもよろしいでしょうか。
せめて貴女様が、ここを去られるまで。”

僧侶は光を、真っ直ぐ見つめていた。
光も僧侶を、真っ直ぐ見つめていた。

”私は、この方の御身を、何に変えても守りたい。”
時が迫る中、光は考えた。
時が迫る中、僧侶も考えていたのだ。
”私は、この方の御身を、何に変えても守りたい。”

朝陽が空と海を包む頃。
光と僧侶は、それぞれ微睡んでいた。
そして、二人は同じ夢を見ていた。
この体。生きている枷から、解放されたい。
なぜ私は、あの方と魂と分かちて、ここに在るのだ。
一つの魂、一つの体であれば・・・。

穏やかに、しかし速やかに。
夕刻が近づいてきたことが空の茜で分かる頃。
洞窟近くに、人の足音が近づいてきた。
いよいよだ。
光は、僧侶に語る。
”僧侶様、ご安心ください。ここは私に、お任せを。”

通常、使いの者はしきたり通り、包みを置いた後、そのまま立ち去る。
御嶽内をみることはない。
しかし、その日は思わぬことが起こった。
使いの者が祭祀にも使う神具を鳴らし、光に顔を出すよう促してきたのだ。

(次編へ続く)

※noteの皆様へ。
このnoteは、以下のマガジンに収められています。
魂の縁あってこそ、存在するマガジンです。


いいなと思ったら応援しよう!

magenta-hikari
ありがとうございます! あなた様からのお気持ちに、とても嬉しいです。 いただきました厚意は、教育機関、医療機関、動物シェルターなどの 運営資金へ寄付することで、活かしたいと思います。