「時空を超えて出逢う魂の旅」特別編 ~琉球⑮~
ノロ(神女)の「光」と、隣国からの仏僧「僧侶」。
二人は心を通わせる。
光の魂の妹「白花」が、僧侶の逃亡の手引きを担う。
その後を、聾唖の元ノロが引き継ぐ。
漆黒の嵐の海へ、光は身を投げる。
光に還った光は、白花と僧侶のもとへ飛翔する。
相変わらず、辺りは前が見えぬほどの暴風雨。
白花は、僧侶と元ノロに別れを告げた。
勾玉を握りしめ、前へ進む。
光姉様は、まだ御嶽にいらっしゃるのだろうか・・・。
屋敷への帰り道には遠回りになるが、白花は御嶽まで戻ろうとした。
”白花、屋敷はそちらではございませんよ。
足元が良くないようですから、
勾玉様、龍神様、太陽神様のお導きのまま、歩みなさい。”
突然の涼やかな声が、白花の行く手を阻んだ。
”わかりました、簪様。
私は、大好きな光姉様が、とても心配なのです。”
”貴女が、無事に屋敷に帰ること。
それを何より、光は喜ぶことでしょう。
さあ、白花。道草はいけません。前へお進みなさい。”
不思議なことが起こった。
いつの間にか、白花は大主の屋敷の門の前に立っていた。
勾玉を握りしめたまま。
いつものように、白花は屋敷に入った。
帰宅を知った大主は、白花に目通りを命じた。
「白花、おぬしというやつは、全く。供の務めも果たさず、
一人で帰ってくるとは、役立たずにもほどがあるわ。光は何処へ?」
「はい、大主様。
『今一度、光姉様に龍神様のお引き留めがありました。
先に屋敷に戻れと命を受けましたゆえ、白花ここに居ります。』」
「ふん、そんな虚言を。」
そこで白花は大主に、光からの勾玉を恭しく見せた。
「自分の魂を先に帰したということは。屋敷に帰る、ということか。
しかし、遅すぎるぞ。明日は何某様との婚礼の準備だというのに。
まさか逃げたわけでないだろうな。」
大主は、下男を暴風雨の中に追いやって、御嶽に向かわせた。
夜深まる頃、血相を変えて下男が屋敷に戻ってきた。
「大主様。大変なことをお伝えしなければなりません。
御嶽だったと思われる場所、崩れておりました。
土砂の山で、埋もれており、近寄ることもできません。」
「何と。道中、光を見つけることはできたのか?」
下男は、頭を振った。
龍神様に引き留められた、光。
そのまま神隠しに遭ってしまったのだろう。
御嶽があったところで、光が土砂の下敷きになったのだと、皆は思った。
さすがに、屋敷・王国の人々も皆、沈痛な面持ちになった。
さらなる婚礼準備金が入ってこないと、舌打ちした大主を除いて。
祭祀が終わった。
王国関係者が、一人一人、白花に礼を述べるため、挨拶にくる。
今日は、新しく完成した倉に、命を吹き込む儀式。
白花は、光が自分を産湯に入れてくれた頃と、同じ年になっていた。
養女の中では、一番通力が優れており、民からの人望も厚かった。
白花は、荷を担いだ供の者を従え、屋敷に帰る。
途中、先に皆を返し、小高い丘へと独り歩んだ。
手には、布に包まれた大きな菓子。
神への供物である。
口にするのはノロと、王族にのみ、許されていた。
白花はこの菓子を見ると、いつも光のことを思い出した。
これを食すことは、神と共にあらゆる恵みを分かち合うということ。
そっと、包みを解く。
この地の大地の様な、やさしい色をした菓子が顔を出す。
なんとこの菓子は、我の口に大きすぎるのだろう。
光姉様はいつも、我にちょうど良い大きさに菓子を分け、
食べさせてくれていたのに。
ぽとり、ぽとりと、涙が大地に落ちた。
不意に白花は、その大きな菓子に、被りついた。
我は独りにあらず。光姉様は、白花といつも共にいらっしゃる。
光姉様と、恵みを分かち合うのだ。
天からは太陽神。大地からは地の神が、そんな白花を見守っていた。
光が失踪して以来、祭祀を担える人間がいなくなった。
相変わらず屋敷には、養女がたくさんいたが、
ノロ(神女)に必要な素質・資質を持ち合わせる者が、皆無だったのである。
大主は困り果て、秘密裏に養女の離縁・縁組を繰り返した。
業を煮やした大主は、人の数にも入れていなかった白花に命を与えた。
それは非常に無責任なことに、自棄になってやったことであった。
白花に、いきなり王国内の規模の大きい祭祀を命じたのだ。
白花は、わかっていた。
いつも、光が護ってくれていること。
生まれて以来、太陽神が護ってくれていること。
光からの勾玉2つに龍神がいて、護ってくれていること。
元ノロからの金の簪は鬢の中から、護ってくれていること。
ノロの白装束を纏い、神扇を手にして。
白花は、ずっと間近で見てきた、光の所作を思い出した。
”白花よ。我らと共にあらんことを。
我々は、お前の手をとろう。”
すぐに、方々から神々が集ってきた。
”神々よ。常日頃の恵みに、深く感謝する。
我々が必要な事を、この地に与えることができるよう。
この地が我々に必要な事を与えることができるよう、どうかご加護を。”
以来、白花は、王国内の祭祀を一手に担わされることになった。
白花は、それを喜びとした。
神と共に、生きることを。
(次編へ続く)
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