「時空を超えて出逢う魂の旅」特別編 ~琉球⑫~
ノロ(神女)の「光」と、隣国からの仏僧「僧侶」。
龍神の招きで、朝日昇る海近くの御嶽で出逢う。
籠りを終える光の迎えに、「白花」が表れる。
”おやおや・・・。
どうぞ、そのお小さい面を上げてください。”
僧侶は瞬時に、白花がどのような人間かを悟ったのであろう。
柔和で、人懐っこい笑顔と共に、平身低頭する白花に語った。
”私は、御仏だけでなく、龍神様にも護られていたのですね。
何とも、有難いことです。”
面を伏せたまま、白花は応える。
”はい、貴方様がお生まれになった時から。
龍神様は常に、共にいらっしゃるとうかがっております。”
生まれた時から。
光は、僧侶の幼名は、海にちなんだものだと聞いたことを思い出した。
ご両親は、僧侶様に龍神の加護があることをご存じだったのかもしれない。
白花は、小さな背中に背負ってきた、大きな包みを解いた。
籠りを終える光のために、「元の人間に還る」ための食物が現れる。
そっと、その食物を手に取り、僧侶に供する光の所作より、
白花は察するものがあった。
光姉様にとって、僧侶様は、とても特別なお方なのだろう。
そうだ、僧侶様にとっても。光姉様は、特別なお方なのだろう。
光は、白花にこれからの計画の詳細を説明した。
僧侶を手引きする最初の務めを、白花に託すことになるからである。
当初は、年長の小姉様にその役目を託そうと考えていた。
しかし、龍神様は白花が務めるよう、お取り計らいされたのだ。
これは、必然。
白花は、光にたずねた。
「光姉様は、”仏様”に同行されないのですか。」
非常に鋭い、たずねであった。
「白花。清き幼な子であるそなたはよい。我は、不浄の身とされる女性。
仏様と僧侶様の供には、相応しからぬ。」
年齢相応の無邪気な表情を見せて、白花は率直にたずねた。
「僧侶様と共に居たいでしょう、光姉様?」
「畏れ多きことを、白花よ。
世の平安のため、僧侶様は、隣国より大命を受けられている。
この先の海も渡られ、和の国へ行かれる、大切な御身。
ましてや我は、縁談ある身ぞ。」
「光姉様。欲張りで乱暴な何某様を夫として、生きるのですか?」
「確かに我は。小姉様に、大主にこう伝えよとは告げた。
『この上なく有難き縁談、謹んで受ける。』
白花よ、我は”何某との”縁談、とは、決して口にはしておらん。
さあ、これ以上、我に詮索をするな。」
可憐な小さな顔に、白花は喜びを広げた。
同時に少し気になった。光姉様の策は、何であろうか。
白花は、龍神の命で持参したノロの装束一式を、僧侶にも渡した。
供を連れ、その出で立ちとあれば、易々と声かける民はいないであろう。
まだ日は高いといえ、蔭りが感じられる頃となった。
いよいよ、御嶽を去る刻が近づいていく。
光は、太陽神と龍神に、僧侶と白花の無事を祈願した。
”太陽神、そして龍神よ。
平素より、この地の平安と秩序、豊穣をもたらしていただき、
深く、真心から感謝申し上げる。
行く末々までも、この地が光溢れるんことを。
本日は、我の願いにも、耳傾けていただけないか。
常よりお護りいただいている、僧侶様。そして、白花。
この二人は、私の魂。
その身を、どうか守っていただきたい。”
僧侶もまた、御仏に、光と白花の無事を祈願していた。
”御仏よ。
平素より、この地の平安と秩序、豊穣をもたらしていただき、
深く、真心から感謝申し上げる。
行く末々までも、この地が光溢れるんことを。
本日は、我の願いにも、耳傾けていただけないか。
常よりお護りいただいている、光様。そして、白花様。
この二人は、私の魂。
その身を、どうか守っていただきたい。”
白花は、そっと、祈祷する二人を見守っていた。
常日頃、この世界の平安を祈る二人。
個人的な想いを、神に託すのは特別な事なのだ。
それは、初めてのことかもしれない。
光は今一度、御嶽を浄めた。
籠りに招いてくれた龍神に、礼を述べる。
日が暮れぬうちに、僧侶と白花を出立させないといけない。
白花も、安全に屋敷に戻れるようにしないと。
白花が不安げにたずねてきた。
「光姉様は・・・いかがなさるのですか。」
「うむ、白花よ。そなたより後に戻るよう、今しばらくここに居る。
そなたは先に屋敷に入れ。そしてたずねられたら、こう申せ。
『今一度、光姉様に龍神様のお引き留めがありました。
先に屋敷に戻れと命を受けましたゆえ、白花ここに居ります。』
わかったか、白花よ。必ずや、そう申せ。」
白花は、何だか胸騒ぎがした。
「他ならぬ光姉様の命、白花は果たしましょうぞ。
光姉様は屋敷に戻られるのですね。そうですよね?」
「白花。我がおぬしに偽りを語ったことは、ないであろう。
それに、片時もおぬしを一人にしたことはないではないか。」
そして光は、自分が身につけていた勾玉を、白花に持たせた。
白花は、その勾玉を受けた。
ずしり、と温かく、手に馴染んできた。
白花はやはり、胸騒ぎがした。
勾玉が、主を変えたことを知ったからだ。
(次編へ続く)
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