「時空を超えて出逢う魂の旅」特別編 ~琉球⑪~
ノロ(神女)の「光」は龍神の招きで、朝日昇る海近くの御嶽に籠る。
その御嶽で、仏と共に生きる男性、「僧侶様」と出逢う。
心を通わせる光と僧侶。
そこに、光の屋敷から迎えの者が到着する。
生きていると、思いもがけないことが起こるものだ。
これは、想像だにしていなかった。
光は、驚き、戸惑いが隠せない。
大主の屋敷から、籠りを終える光の迎えのため、
御嶽の洞窟に来たのは、「白花」であった。
白花は誕生以来、生母である大主に育児放棄された。
白花の存在を否定し、忌み嫌う大主に迎合した養女達は、
乳幼児である白花を、隙あらば虐待した。
白花を守るべく、光は自分から片時も離さず、共に過ごした。
血の繋がり以上に深い魂の縁で、二人は寄り添うように生きてきた。
光は、まだ幼い白花の身の周りの世話をし、可愛がった。
神以外信じれる者もなく、孤高を持する光にとって、
自分を慕う、愛らしい白花は、心の拠り所そのものだった。
白花もまた、心から光を慕っていた。
生まれて以来、いかなる時いかなる者からも、
光は自分を守ってくれたのだ。
白花は、光から言葉や歌を教わり、遊び相手になってもらった。
時々二人で、甘い菓子を共に分け合うのも楽しかった。
珍しいものが手に入ると、光はそのままそっと、白花にくれた。
また白花は、祭祀をする光をいつも間近で見てきた。
艶やかな黒髪に、ノロ(神女)の白装束と装飾品を身に纏い。
祭祀をする光の姿は非常に美しく、白花の憧れの対象。
神々に好かれる光を、白花も好きだった。
「白花、何と言うことだ。幼きお前に供もなく、一人御嶽によこすとは。」
よくぞ無事に、ここへ辿り着けた。
様々な感情の中、光はまず、白花の無事を喜んだ。
「光姉様。白花は1人では、ございませんでした。供がおりました。」
白花はそっと、首にかけていた勾玉を手に取った。
光が出立前、護符にするべく、白花に与えた勾玉だった。
光はたずねた。
「我は、小姉様を迎えに寄こすよう、大主に所望したはずだが?」
白花は、顛末を話してくれた。
「屋敷に戻られた小姉様は、御顔色が無く、臥せっておられました。
大主様にお目通りするため、やむなく起き上がり、
光姉様が何某様との縁談をお受けされることをお伝えされました。」
「白花よ。それだけか?」
「はい、光姉様。それだけです。」
光は悟った。小姉様は、光が何かを抱えていることを、察したのであろう。
小姉様は厄介事に巻き込まれたくない一心で、自らを閉ざし、
光が迎えとして自分を指名したことは、大主に明かさなかったのだ。
「して、白花。如何様にして、お前が我の迎えに。」
「はい。龍神様が、私の手を取ってくださいましたゆえ。」
白花もまた、聡い人間だった。
小姉様は何か抱えている。常ならぬことが光に生じていると察したのだ。
ここは、この屋敷の者を、御嶽に出向かせるわけにはいかぬ。
白花は思わず、光からもらった勾玉を握りしめた。
不思議な事が起こった。玉は熱を帯び、じわりと白花に伝わってきた。
”白花よ。我がおぬしの供を務める。明日、御嶽へ出向くのだ。”
心の奥に響くその声に、白花は驚いた。
姿は見えぬとも、それは龍神からの語りだとわかったからだ。
白花は、通る声で皆に告げた。
「大主様、姉様方。光様のお迎え、この白花が仰せつかります。」
一同が、静まり返った。
「ふん、莫迦な。おぬしの様な戯けに、何ができるというのか。譫言を。」
「畏れ多くも、龍神様の命にございます。大主様。」
なおも蔑んだ目をした大主に、白花は恭しく勾玉を見せた。
再び、一同が静まり返った。
見たこともない色の勾玉から発せられる光を、目にしたからだ。
「龍神様の”お供”、この白花。謹んでお受けいたします。」
白花は、籠りが終わる光のために、支度を整えた。
”白花よ。もう一式、装束を持て。”
龍神の導きに従い、白花は装束をもう一揃え加えた。
道すがら、白花を護る太陽神は、白花を背後から照らし続けた。
”白花よ。今日は我を見るな。我を背にさえしておれば、御嶽じゃ。”
御嶽まで迷うこともなく、白花は辿り着くことができた。
光は再び、幼気な白花を抱きしめた。
胎児の頃から知っていた白花は、
自分が大主の養女になった年の頃となっていた。
神よ。どうか末永く、白花を護り給え。
「龍神様からうかがいました。
この御嶽に、光姉様と共に招いた御仁がいらっしゃると。
ご挨拶を申し上げとうございます。」
光は、再び驚いた。そうだったのか。
龍神は我だけでなく、僧侶様もここへ招いていたのだ。
光はそっと、白花を洞窟の中に誘った。
清泉のほとりで、僧侶は黙祷していた。
白花に気づいた僧侶は、身を興そうとしたが、
白花はそれを押しとどめ、素早く平身低頭した。
”勿体のうございます、龍神様に護られし御方様。
お目にかかることができ、白花、この上ない光栄でございます。”
(次編へ続く)
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