「時空を超えて出逢う魂の旅」特別編 ~琉球⑩~
ノロ(神女)の「光」は龍神の招きで、朝日昇る海近くの御嶽に籠る。
その御嶽で、仏と共に生きる男性、「僧侶様」と出逢う。
心を通わせる光と僧侶。
二人の輝いた時間に、終わりが近づく。
わずかに光る、細い月が昇る頃も、光と僧侶は語り合っていた。
自然のこと。これまで経験したこと。
自分で考え、感じた事。
話は、尽きることがなかった。
不思議な感覚。
それぞれが経験したことを持ち寄り、一つのものへ完成させる、
そのような気持ち。
かすかに空が白み始めた頃、二人はそれぞれ、微睡んでいた。
そして、同じ夢をみていた。
光放つ体で、空高く舞い上がり。
星や月の間を、どこまでも飛翔する。
思うままに、望むままに。いつまでも。
永遠に。
いよいよ、御嶽を去らないといけない日が来てしまった。
このような日でも変わらず、太陽は昇ってくる。
光は、僧侶の命を救うため、策を考えていた。
僧侶をなんとしてでも、この王国内から脱出させる。
隣の王国は、自然が多いので安全に逃亡できるだろう。
また、比較的隣国とも安定した状態にある。
おそらくその王国であれば、正当な裁きもなく、
隣国人を殺すような野蛮な振る舞いを受けることはないであろう。
問題は、その隣国まで、どのように導くか。
人目に触れず、できるだけ最短・かつ安全に僧侶が行くためには、
手引きをする人間が必要だ。
まず、夕刻に迎えに来るはずの、小姉様。
この御嶽の少し先にある難所手前まで、僧侶様を導いてもらう。
海沿いの難所は、王国の者が忌み嫌う場所。人目につくことはないだろう。
そこで、事情あって王国を追放された聾唖の元ノロに、引き渡してもらう。
この元ノロは、貧困に喘いでいる。
こちらが金品供すれば、どんなことでも引き受けるだろう。
また、聾唖の為、見聞きしたことを他言することはできない。
そもそもで世捨て人となった、この元ノロに近づく者も無い。
難所を越えると、ほどなく隣の王国だ。
そこには、実際に会ったことはないが、光に恩義のあるノロがいる。
ずんぐりとした体躯。少々精神不安定なところがあるのが気にはなるが、
光からの命とあれば、多少の働きは厭わないだろう。
そのノロに3番目の手引きを頼むべく、光は通力を放った。
以前、その王国の海の男達が立て続けに、海難事故に遭った。
そこで、そのノロに、海を鎮め、男達の安全を祈願する祭祀の命が
下された。
そのノロは、神女を名乗っていたが、通力にはいささか弱さがあった。
まず、自らの心が、自らの体から抜け出てしまっていることが多かった。
周囲の人間に妄言虚言を吐き、神ともうまく繋がれなかったのだ。
件の祭祀を納めても、海は荒れたまま。
ほとほと困ったノロは、風の神に助けを求めた。
「誰か。この窮状を助けてくれる者は、おらんのか。」
その王国外にも、風は吹き、広く伝えた。
”海の男達を守り、龍神の怒りを鎮めてくれる者はおらんか。”
風の神の囁きを捉えた光は、すぐに祭祀を請け負った。
龍神の欲することに耳傾け、事態を収束させたのだ。
このようなことから、そのノロは光の命を拒否はしないと思われた。
光は、僧侶にこれからの手順を説明した。
僧侶は、慈愛を瞳にたたえながら、最後まで聞いていた。
”光様。貴女様の厚情、感謝しております。
だからこそ、光様を危険に晒すことはしたくありません。
使いの方がお出でになる前に、私はここを辞することにします。”
”僧侶様。貴方は仏様の導きで、この御嶽をお出になるのです。
その”仏様”に、私は供を付けるのです。お間違えなきよう。”
僧侶は、光の真意がわかっていた。
その上で、言葉を続けた。
”おお・・私としたことが、仏様への供を退けるとは。
何とも畏れ多い誤解を。光様、有難きお心遣い、感謝いたします。”
それから、空の光が和らぐ頃まで。
光と僧侶は、語り合った。
”光様。戯れのおたずねです。
貴女様がもし、鳥のように完全に自由の身であるのであれば。
どこで、何をしたいと思いますか。”
光の答えは、決まっていた。
それはこの3日ほど前には、考えもしなかったことだ。
”僧侶様がこの戯れのおたずねに答えられたら、申し上げましょう。
貴方様がもし、鳥のように完全に自由の身であるのであれば。
どこで、何をしたいと思いますか。”
怜悧な光からのたずねに、僧侶はこう語った。
”おたずねするまでも、ありませんでしたな。
どうやら、我々の答えは、同じようでありますから。”
そこに、人の気配が入った。
いよいよ、大主の屋敷から使いの者が、光を迎えに来たのだ。
今一度、光と僧侶は、見つめ合った。
この方の瞳を、永遠に忘れることはないだろう。
光は、洞窟の先に声をかけた。
「迎えのお役目、ご苦労である。先程、龍神様はお帰りになられた。
こちらに入るがよい。」
使いの者が、洞窟に入って来た。
光は、大きく目を見開いた。
思いもしなかった者が、目の前にいたからである。
(次編へ続く)
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