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「時空を超えて出逢う魂の旅」特別編 ~琉球⑥~

神の取り計らいで、ノロ(神女)として生きる「光」。
神々と繋がる日々を過ごす。
龍神の招きで光は、朝日昇る海近くの御嶽に籠る。
ある夜、そこに男性が現れた。

月の光を受け、星空と漆黒の海を背に、その男性は立っている。
光は、その男性を眺めた。
その瞳を、真っ直ぐ見つめた。
ここは、王国の誰もが知っている、御嶽。
男子禁制であり、どんな狼藉者ですら、荒らすことができない聖地。

我が張った結界を越えて、ここに立てる人間は、
神の化身、または”自ら”しか、おらぬはず。


男性は、月の光を浴びて光る、その女性を眺めた。
その瞳を、真っ直ぐ見つめた。
このような洞窟の中に・・・仏の化身か。
それともついに私は、肉体を離れて、幻を見ているのだろうか。


最初に、言葉を発したのは光だった。
「貴殿は、何者ぞ。」
男性は一瞬、はにかんだ少年のような表情を見せた。
男性は残念ながら、光の言葉を解すことができなかった。

しばらくして、今度は男性が口を開いた。
隣の大国の、言葉であった。
男性は、自分の言葉が光に通じないことに気づき、砂の上に文字を書いた。
光は、その文字を見た。とても美しい手筆だった。
残念ながら、光は隣国の言葉を解せず、非識字者だった。

またしばらく、二人はただ見つめ合っていた。

光は、心を定めた。
そして、その男性の魂に語りかけた。
"ここに、入られるがよい。"
すると、その男性も、光の魂に語りかけてきた。
"かたじけない。感謝いたします。"

男性は洞窟の中に入った。
光に遠慮しているのだろう、不自然なまでに距離を置き、腰を下ろした。

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光は、男性に水と食料をすすめた。
男性は大きな喜びを表し、しばし祈祷してから、
そっと食料を押し戴いて、食事を始めた。
光は、その振る舞いを見守っていた。
気持ちの良いものであった。

一息ついた後。
男性は自分がここに辿り着いた経緯を、光の魂に語りかけてきた。
"私は、隣国の僧侶です。
仏教を興すため、商人などと共に、和の国へ向けて船旅をしていました。
ある時、暴風雨で船が流され、この地に着きました。
共に旅をしていた他の船の行方は、残念ながらわかりません。
私の乗っていた船にいた数人は、生き残ることができました。
ところが、この地の人に、助けを求めたところ、
いきなり私達は捕えられたのです。"


光は、なぜこの男性、”僧侶様”が捕えられてしまったか、理解できた。
この時代、この地のいくつかの王国はそれぞれ、
自らの勢力を伸ばそうとしていたため、とても不安定な状態だった。
その不安定さを、隣国は知っていた。
あわよくば、この小さな王国を手に入れようと目論んでいたのだろう。
隣国のスパイがどこからとなく流入しては、暗躍していた。
そのため、流れ着いてきた隣国の者を疑い、捕まえたと思われる。

"私達の言葉を解す人間を請いましたが、それも聞き入れられず。
ある日、牢から一人連れて行かれました。
彼は戻ってきませんでした。処刑されたものと思われます。
毎日、牢内の人間は減っていきました。
私はいつもと同じように、御仏に祈っておりました。
この世が、仏の導きで、安寧なものとなりますよう。
最後には、牢にいるのは私一人となりました。


その夜。方々から叫び声が聞こえてきました。
敷地のとこかで、どうやら火事が生じたようです。
辺りが慌ただしくなった最中、御仏の声が、聞こえたのです。
”出でよ”
私は気づきました。牢守は火事を見に行ってしまい、いないことに。
さらに、閉じられていたはずの牢から、なぜか出ることができました。


私は、走りました。目立つ僧衣を脱ぎ捨てて。
御仏の導きに従い、混乱極まる敷地内を抜け、野を走ったのです。
どこまでも、どこまでも走って。
そして、ここに辿り着いたのです。"

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僧侶の瞳には、あたたかで力強い光が灯っているものの、
体には、これまでの日々の疲れが見て取れた。
船で流され、異国で勾留されて。
無実の罪を被せられて、やむなく逃亡する生活は、
さぞ苦労が多かったのだろう。

光はしばらく、いつの間にか寝入ってしまった僧侶を眺めていた。
なんとも、不思議な御仁よ。仏に護られているのだろう。
そして、僧侶と語ったことを、思い出す。

"貴女様の、お名前は?"
"はい、光と申します。神女に生まれ変わった時から。"
"光様、ですか。それはそれは。相応しくていらっしゃる。"
そして、節のしっかりとした指で、砂の上に文字を書いた。

美しい、光放つ文字。

"光様。私も幼い子供だった時、孤児になったのです。
御仏の導きで、僧院に入りました。以来、仏と共に生きております。"

そう、この方も、共に生きる方がおられるのだ。
光は、夜空を眺めた。
なんだか今晩は、星がより煌いているように見える。
海の波の音も、さらに優しく響いてくるようだ。

(次編へ続く)

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