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「時空を超えて出会う魂の旅」特別編~印度支那⑳~
東南アジアのある地。
出家を経て、戒名「慧光」を私は授けられる。
”巨大寺院”に入門。
「賢彰」率いる兄弟子集団と、波乱に満ちた修行生活を送る。
心通う少年、「空昊(空)」と出会う。
巨大寺院に訪れた隣国の僧、「碧海」と出会う。
査察団の帰国の日が近いことを知って、
慧光は、とても寂しく思った。
しかし、さらなる大老尊師の言葉に、衝撃が舞い込んだ。
「慧光殿。
碧海尊師は、この寺院に今しばらく、留まる。
必要に応じ、我々に力添えしていただけまいか。」
「大老尊師殿。もちろんでございます。全力をかけて。」
大老尊師から、碧海尊師が巨大寺院に留まる理由を共有された。
第一の目的は、この寺院内の僧達の研鑽を深めてもらうため。
碧海尊師は、仏教の神髄を伝える仏典・仏事にも精通している。
そのため、直々に隣国語で勉強会を開催する。
第二の目的は、その勉強会で学ぶ尊師、老尊師を中心に、
皆が本来あるべき修養に努めることにより、寺院内分裂を完全に収め、
以前のようにこの国と近隣諸国の平安を人々にもたらす存在となること。
そして、第三の目的。寺院内で戒を破る僧に、愛をもって接し、
自身の光を取り戻す手助けに力添えしてもらうため。
慧光は神妙な面持ちで聞いていた。
なんとしてでも、この巨大寺院が本来あるべき姿になるよう、
自分も力になりたいと思った。
大老尊師は、自身の命が長くないことも知っているのだろう。
だからこそ急いてでも、寺院内の秩序を取り戻すよう尽力されているのだ。
先日も、賢彰達は禍事を起こしている。
それにより、何人かの僧達は、寺院を去ってしまった。
空昊にも、嫌がらせが絶えない。
賢彰達の欠乏、執着とは何であるか。
そのような彼らも、”愛”である。
共に生きる大切さを皆に学ばせる、愛の化身。
どのような時も、底と天の無い真の慈悲をもって自他に接する。
その実践の機会を、慧光は与えられていると考えていた。
慧光は、そっと考えたことがあった。
碧海尊師は、留まる。とても嬉しい。
我は、勉強会にぜひ入りたい。
もっと広く御仏の教えを学びたい。碧海尊師から。
そのためには、隣国語を学ばないと。
このように思うまま、感じるまま、考え行動しても、いいのだろうか。
・・・いいと、しよう。
自分の魂のまま行動することに慣れていない慧光だったが、
この時は、想いと行動が同時となった。
大老尊師のもとを辞去する際、慧光は願い出た。
「大老尊師様。
非常に僭越ながら、我に隣国語を教えていただけないでしょうか。
また、御仏についても、より広く深く、学びとうございます。」
一瞬、大老尊師から、間があった。
「うむ、いいだろう。
早朝、ここに来るとよい。」
翌朝。
大老尊師から、仏典と隣国語を学ぶ日々がはじまった。
これまでも慧光は真摯に修行してきたが、
それをさらに上回る熱意をもって、勉学に励んだ。
早朝より中天の頃、大老尊師のもとを辞する道中で、
大老尊師を訪れる碧海尊師と、毎日出会う。そっと挨拶を交わす。
そのことが、さらなる励みとなった。
碧海尊師が、この世にいる。
なんと有難く、幸せなことだろう。
辺り一面、茜色の空が広がっている。
食事を手に、空昊は大老尊師へと運んだ。
「大老さん、だいじょうぶ?」
「おお、空昊。ありがとう。大丈夫だ。
・・・・いや、疲れておるな。」
「朝早くから、光にいさんが。お昼からは、碧海さんが。
二人に1日中、仏さんのことと、言葉を教えているんだもんね。」
「そうだな。面白いものだ。二人同時に、同様の頼みを我にした。」
「大老さん達が話していること、おもしろそう。」
「そうであろうな。御仏のことは、尽きぬぞ。
一日中我らの会話を聞いている空昊も、
そのうち、隣国語がわかるようになるかもしれんな。」
大老尊師は、最近著しく背が伸びだした空昊を、目を細めて見た。
空昊は、自分の年齢や誕生日を知らない。
初めて巨大寺院に来た時、その小さな体格から、
「10歳くらいかとは、思われます。」と慧光から聞いていたが。
実際は、もう少し上であるのかもしれない。
物覚えができないため、空昊は他の人間から軽んじられる。
しかし、人間の持つべき愛、素直さを持ち合わせた空昊の
一体どこが、「さわりがある」のだろうか。
大老尊師は、自分亡き後も空昊が困らないよう、様々手配を考えていた。
しかし、ある時以来、気を巡らせることを止めた。
空昊に今後のことを話し出すと、明解な答えがかえってきたからだ。
「大老さん。ぼく、今は知ってる。
でも、先のこと、わかんない。アハハ。」
過去を追わず。未来に臆せず。大切な今の連続で生きる。
自ずと仏の教え、「永遠の今」を体得している空昊。
大老尊師は、空昊と、笑い合える今を、ただ喜ぶことにした。
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