VR登録商標「フルトラ」事件の幕引き→企業としても難しい判断&第三者が安心するためには無効審判での決着が必要か?
想像以上に反響を頂きまして。揉め事で閲覧数を稼ぐような浅ましさは多少自覚しつつ、需要があるのであれば専門家としてお応えしていく所存です、はい。
(何のことかわからない方はこちら↓)
この件に関しては、商標権者様から公式の見解が発表されたということで、コメントで続報をというお声を頂いておりますので、続報記事を書いている次第です。
ありがとうございます。
それでは、商標権者様のご見解を見ていきましょう。繰り返しになりますが、第三者ですので、どちらの肩を持つことも無い立場で見ていきます。
拝見し、事態の収拾に適切に対処されたなという第一印象です。企業法務としては難しい舵取りを迫られています。肯定的に評価できる部分と、疑問と思われる部分と、いくつか論点があると思います。とりあえず対処のスピードに関しては迅速にされたなと感じます。
やはり「山中先生方式」が落としどころでしょうか。仮に誰かが取得するものであるとすると、本来HTCとかが取得しておくべきものだったのかもしれません。
商標権者側の事情について
そもそも他社の権利を侵害しないためにという事情
ここに書いてあることは教科書通りの知財実務で、誰かに責められるような主張ではないと思います。
まず、自分たちが使用するワードについては念のため商標登録出願をして、審査を経て、特許庁に登録が認められることで商標の使用の安全性を確認するということは通常行われています。
「フルトラ〇〇」,「▲▲フルトラ」なんていう商品名をつけるかどうかは商売のセンスの問題ですのでここでは触れないでおきましょう。
商標権を行使しないと有名無実化してしまうのだが…
やっぱり、ここが第三者から見て「うーん」というポイントということだと思います。
実際どういう登録商標の使用であったかは不明ですが、仮にばっちり侵害しているとして話を進めると、権利があって、他社がそれを侵害しているのに何も権利行使しないというのは、権利者の在り方として問題、という様にも考えられます。現時点では正当な権原があるわけですから。
商標権が有名無実化してしまうからそれを防ぐために権利行使したという大義名分も与えられますが…。
「他社の権利を侵害することなく利用することができるため」という目的が、「今後の弊社商品への影響を防ぐため」に変換されてしまっているところが、モヤモヤポイントではないでしょうか。
しかし、取得したはいいものの、取り扱いに困る商標権ですね。
貴社にお任せしても…? "Don't be evil"を願う
ここは皆さんWeb魚拓にとっておく必要がある記載でしょう。商標権の不行使を宣言されたことは、評価されるべきことと思います。
また、もし仮に商標権の不行使を宣言してくれる他の方がいれば、商標権を無償で譲渡することも記載されています。しかし、それはそうでしょう。権利行使できないのに、数十万円の維持費用だけを誰が喜んで支払い続けますか。そういうことも加味してここは見なければいけません。誰か私の代わりに人柱になってくださいということです。
またこの「宣言」をどの程度信用できるのか?ということも、第三者からみればモヤモヤです。このWeb魚拓がある限り、手のひら返しの権利行使は「信義則」に反するということで、権利の濫用にあたり許されないということにはなると思います。しかし、凍っているシン・ゴジラを遠目に見ながら生活するような気味悪さはありますよね。
これを受けて請求人は…?
弊所の上記記事も請求人様はご覧になったようです。やりすぎかもと言ったこと御容赦ください。さて、
要求していた(1)~(4)についてある程度解決がなされたということで、ほっとされているようですが、全ては解決されていないようです。改めに(1)~(4)について整理してみましょう。
(4)については、商標権の不行使を宣言されたということで解決でしょう。
(1)については、商標権の放棄までは宣言されていません。無償譲渡先が見つからなければ「抹消」としています。「抹消」という権利者の手続きは存在しませんので「放棄」のことだと思います。「抹消」というのは特許庁側が行う処分です。
また、「無償譲渡先が見つからなければ抹消」のタイミングがいつなのかは不明です。しかし、まあ概ねOKということでしょうか。
(3)については、これ以上の説明はおそらくないでしょう。
(2)については、一応争うのかどうなのかはっきりしませんね。
上記記事でも述べましたように、「放棄」では、登録日から放棄日までの権利有効期間が残ってしまいますから、すっきりさせたいところではあります。
無効審判で議論を尽くして審決した方が第三者は安心かも
無効審判を戦うというは、実は誠実な態度かもしれません。
「ゆっくり茶番劇」商標事件では、権利者側は商標権を放棄しつつも、無効審判では答弁を行い、その結果無効となったようです。
(審決表示はこちら↓)
審決の最後の言葉が印象的ですね。
やはり、この「フルトラ」騒動もまた、「無用な混乱」として、議論を尽くし、無効ということで決着をつけた方が第三者は安心できるのかもしれません。
商標権者が答弁を行わずに負けてしまうと、もしかしたらさらに他の第三者が再度チャレンジし、商標権を取得できてしまうというかもしれない、疑念が残ることにもなります。
そうならないために、最後まで悪役を引き受けて無効審判を戦うのは、商標権者の事件に対する誠実な姿勢といえるかもしれません。ちょっと美化しすぎたかも。
商標登録無効審判には確定審決の対世効がありますから、ここで決定された事項は第三者に対しても法律的効果が及ぶというものです。
当事者同士で公開議論を行うことよりも、有益ですので、ぜひ無効審判を存分に戦って結論を出された方が、VR業界の皆さんにとって有益だと思います。
前川知的財産事務所
弁理士 砥綿洋佑