スマトラ島の温泉をめぐる旅 13日目 トバ湖から120キロの至福の温泉
今日はタルトゥンという街を目指す。その名もソーダ温泉というとんでもない炭酸泉があるらしいので、絶対に行きたいと思っていた。近くにはインドネシアのパムッカレといわれるシポホロンがある。
1.朝一番の滝風呂
せっかく泊まったのだから、誰もいない温泉に入る特権を行使しないともったいない、と貧乏根性で入りに行く。
朝6時、宿のおばちゃんは起きて準備を始めたが、入口の鍵はまだかかっている。
時折小雨のちらつく残念な天気で、トバ湖は鈍く光っている。
わたしは最後の絶景を目に焼き付けた。
おばちゃんに家具を移動させる手伝いをさせられた後、宿に別れを告げ出発。
かなり寒いので雨具を着る。
道はしばらく湖畔にそって進んだ後、川に沿って山に分け行っていく。日本の山の中を走っているようだ。空気がつめたい。
2.プスクスマス・ブタールの温泉
途中で休みながら3時間以上かけシボロンボロンという、湖を一周する道と海に向かう道が交わるところに街についた。
そこから数キロ幹線道路を外れて進むと温泉が集中している場所がある。
どれくらい集中しているかというと、100メートルほどの小道沿いに5軒ある。
道端の屋台で豚を焼いているおばちゃんに温泉の場所を聞いたら、「こっから先は全部温泉だ」と言っていた。
時間が悪かったのか、清掃中のところが多く、わたしは1番奥の「ナラムボック温泉」にした。
ここは個室風呂に入る。そして入浴料を取らない代わりに、店で何かを注文する決まりになっている。どこも同じシステムのようだ。
日本の温泉のように下に下ったところにある
個室風呂の様子はこんな感じ
温泉は茶色い土類泉と思われる。塩気はなく、金気もない。析出物は少なめだがある。自家源泉で、地下からポンプで組み出しているそうだ。
次に入ったのは、すぐ近くの「Enjels温泉」。ここも個室風呂タイプでシステムは同じ。
泉質はさっきの温泉と同じに感じたが、こっちはぬるい。というより冷たいに近い。
わたしは比較的温度が高めの個室を選んで入ったが、底の方は冷たいので、結局ぬるい温泉になってしまった。
ちょっと離れた温泉
そこからさらに2キロほど日本の農道のような田んぼの細道を進むと、同じように温泉が集中している集落が現れる。そこは道を挟んで4軒が全部温泉だ。
ここは無料で、かつ店ではないためお礼に何か買うこともできない。
ボロいがお湯はいい。
同じ土類泉でも、さっきのよりこっちの方がちょっとだけ濃いように感じる。
析出物もこっちの方が多く、味も匂いも違う。
3.シポホロン
温泉のある集落からシボホロンまで、バイクで20分くらいかかる。
最初は気づかず通り過ぎてしまった。白い巨大な析出物のドームが見えるはずと思い込み探していたのが原因。
実は道からはチラッとしか見えない。昼間は水蒸気も出ていないし、硫化水素の臭いもしない。
道と析出物の丘の間に温泉施設を備えた食堂とホテルが並んでいる。
わたしは温泉プールを見た後、値段だけでも聞いておこうとそこにあったボリボリホテルという名前のホテルに入った。
1番安い部屋は10万ルピア(1000円)しかしない。温泉に入り放題なのが気に入り、泊まることにした。
ホテルのプールから温泉の流れ出る丘にそのまま行ける。
わたしは専門家ではないので間違えている可能性はあるが、いわゆる石灰華ドームに見える。日本では夏油温泉の天狗の岩が代表的で、国の特別天然記念物に指定されている。
規模だけで言えば、ここは天狗の岩の10倍以上の規模で、日本にあれば間違いなく国指定天然記念物になるだろう。
ここの温泉は、最後寝る前に入ったのだが、時間の前後を無視してここで記載する。
お湯は綺麗に白濁していて湯の花にも見えるが、硫黄成分ではなく炭酸カルシウムが多過ぎ白くなっている可能性もある。石灰をお湯に大量に投入するとこうなるだろう。
裏の石灰華の山で自然湧出した生まれたての温泉を、岩に溝をほってプールまで持ってきている。素晴らしい鮮度。
うまい具合に温度が低下して、広いプールに投入すれば38度くらいになる。湯口付近は40度以上ある。
味は今まで味わった記憶はない。酸性泉でもないのに目に染みるのも初めての経験。明日の朝にもう一度確かめてみるつもりだ。
4.タルトゥンの温泉
(1) ソーダ温泉
この温泉だけポツンと離れた場所にある。
休みのせいか、いつものことかわからないが、とても混んでいる。浮き輪で遊んでいる子供が多く、プールのようだ。
見ると無数の泡が池全体から湧き上がっている。池の底から大量の温泉が湧いている足元湧出泉。
水着に着替えて入ると温水プールくらいのぬるい温度。
炭酸泉の成分である二酸化炭素は、温度が低く圧力が高いほど水に溶ける。地表に湧き出て温度も高いとすぐに空気中に放出され消えてしまう。
例えば、日本で1番二酸化炭素成分が多い温泉は秋田の玉川温泉だが、100度で湧き出してくるので、湧出した直後にすべて消え去っていると言われる。
なので、一般的に炭酸泉は冷鉱泉が多い。この温泉は30度はあるので日本基準なら冷鉱泉にはならない。
わたしは炭酸泉で有名な長湯温泉や七里田温泉に入ったが、ここと比べると炭酸泉と言ってはいけないんじゃないかと思うほど、ソーダ温泉は別格だ。
炭酸泉は、皮膚の表面についた泡が弾けることで振動が生まれ、皮膚表面の毛細血管を拡張する効果があると言われている。
血行が良くなる。実際皮膚が赤くなる写真を見た。毛細血管が広がるので、ヘモグロビンの赤がより見えるということ。
温泉成分で唯一体に明確な効果があるのは炭酸泉という人もいるくらい。実際にわたしは初めて、ぬるいお湯に入っているのに熱く感じる体験をした。
とても感動した。あの話は本当だったんだという感覚だ。
ソーダ温泉とはよく言ったもので、本当にソーダ水に使っているようにシュワシュワという音が聞こえるようだ。
わたしはもう一度明日の朝早く来てみようと思った。静かな状況で音を聞きたい。
(2) Tamaro Hot Spring(タマロ温泉)
タルントゥンの町には温泉が集積している場所があり、その中の一つに行ってみた。
ここにしたのは、立派な析出物ができている写真を見たからで、炭酸カルシウムの温泉に入ってみたかった。
ところが、析出物は確かに形成されてはいるが、ずいぶんと小さくなっている。
途中で折れたか、意図的にとってしまったかは分からない。
大変残念なことに、温泉の価値をよく理解していない清掃会社の人が、良かれと思って析出物を削りとってしまうことが日本でもある。
わたしは長湯温泉のバーで、温泉旅館の若旦那と話した時に実際聞いた。彼はそこまで気にしていなかった。すぐに大きくなるからかもしれない。
この温泉は個室風呂があり、追加料金5,000ルピア(50円)で利用できる。
お湯は新鮮そのもの。
析出物ができているので石膏泉だろう。
温度もちょうどよく幸せを噛み締めながら入浴した。
夜はホテルの近くのカフェ&レストランに行った。
カラオケ付きなのでうるさく感じる人もいるかもしれないが、奥側の席は音が軽減される。
景色がいいのと、店員がことごとく熱心で感じがいい。
寝る前にもう一度来てしまった。
明日は連泊するか移動するかまだ決めていない。