【チベット・インド旅行記 】#1 プロローグ
6月の麗かな日差しが差し込む高速道路のパーキングは、仕事で使う乗用車や、大型トラック、家族連れのファミリーカーなどで賑わっていた。
ここは東京都八王子市、中央自動車道沿い、石川パーキングエリア。
駐車場でアイドリングしている車のそばをウロウロしながら、しきりに声をかけている怪しい男は私。
「あの〜すみません、もしよかったら乗せていただけませんか〜?」
フロントガラス越しに、ダメダメとジェスチャーをする会社員風の男。
「ごめんね〜、車いっぱいで〜」と人の良さそうなおばちゃん。
手当たり次第に声を掛けてみても、なかなか車は捕まらない。
ガックリと肩を落としていると、背後から声が聞こえた。
「おい兄ちゃん、ヒッチハイクか?どこまで行きたいんだ?」
「あ、ありがとうございます!えっと、チベット…。じゃなかった、とりあえず大阪まで!」
チベット。
そうである、何を血迷ったのかその頃の私は、世界の秘境チベットを目指す為、東京都八王子市でせっせとヒッチハイクをしていたのである。
世界の屋根チベット。いつからだろうか、この響きに心を奪われるようになったのは。
高校時代、勉強のべも字もせずに、毎日遊び呆けていた私は、高校3年生になったある日、ふと気付いた。
「あれ?俺、高校卒業したら何しよう?」
慌てて周りの友達に相談してみると、意外や意外、周りはちゃんと進路について考えている奴ばかり。
逆に、ユーキは一体何がしたいの?と聞かれて返答に困った。
大学に進むとか?
専門学校に行くとか?
就職して仕事につくとか?
特にやりたい事も、なりたいものも、学びたい事もなかった私は、一向に決まらない進路から逃げるべく、高校3年生の夏休みに、屋久島までヒッチハイクで旅に出る事にした。
埼玉からヒッチハイクで鹿児島に行き、港からフェリーで屋久島に渡った。
そして縄文杉見たさに半分ノリで登った宮之浦岳で、ヒッピー風の旅人と出会い、山小屋で夜更けまで語り合った。
「ゆうきくん、世界だよ。確かに大学も就職もいいかもしれないけど、まずは世界を観ないと。チベットもいいよね〜、きっと人生変わるよ」
「はぁ、チベットですか…」
満点の星と天の川を眺めながら、遥か海の向こうの見知らぬ土地を思い描いた。
そして旅から帰ったある時、思い出したように、チベット旅行のガイドブックを手にとって読んだ。
【チベット】平均標高4000mを超える、世界の屋根。国を統べる法王ダライ・ラマは、代々輪廻転生によって決められているとか。ふむふむ。
それより何よりも、写真に見開きで映された、どこまでも続く荒野に心を奪われた。
一面灰色の、月面のような世界に、絵の具で溶かしたようなコバルトブルーの空が広がっている。
「世界を観る」か…。
確かに、旅に出たら、何か分かるかもしれないな。
そうして高校3年生の後期、仲良しの担任教師に廊下で、「そういえば、ゆうきは卒業したらどうするんだ?」と聞かれ。
「俺は卒業したらチベットに行くぜ!」と答えたところ。
「さすが!ゆうきは言うことが違うな!」と満足そうに返され、私の進路は正式に決定した。
およそ3秒あまりの進路相談である。
以上、完全に思い付きで決めた進路だったが。
卒業したら旅に出る。俺はチベットに行く。と友達に言いふらしている内に、「ゆうきくんスゲ〜」とか「前田は自由でいいな〜」とか言われ始め、だんだんと後に引けなくなってきた。
こうなった以上はやるしかない。
決意を固めて、旅の準備を始める事にした。
季節は巡り、桜咲く3月末。
高校を卒業し、晴れてフリーターの称号を獲得した私は、チベット行きに向けて、実家のそばのファミリーレストランで馬車馬のように働いてお金を貯めた。
そして1年が過ぎた、2004年6月8日。
貯めたお金を握り締め、ギターとバックパックを背中に背負い。
いってきます、と家を飛び出した。
リュックサックには、ロジャース2(ホームセンター)で買った、安物の寝袋と、小さなテント。
台所からくすねてきた、鍋と皿と包丁。
着替え数枚。
ポータブルCDプレーヤーと、お気に入りのCDを何枚か。
そして胸いっぱいの根拠の無い自信と期待を携えて、
今まさに、1年間に渡る旅が始まろうとしていた。
まえだゆうき19歳
そんな僕の行く手には、一体何があるのだろうか?
(つづく)
【おまけ】
高校の卒業式はチベット僧侶の格好で出席しました。
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