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ケンチャナヨ(きっと大丈夫)
チベット・インド旅行記25
#25,国境へ①
【前回までのあらすじ】念願の地チベットへと辿りついたものの、悩み多き旅の日々を送っていたまえだゆうき。旅の進路はいよいよ隣国ネパールに向けて動き出す。
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久しぶりのラサの街、馴染みのヤクホテル。
ドミトリー(相部屋)の旅行者の顔ぶれはすっかり変わってしまったけれど、受付のチベット人の女の子たちは、相変わらず元気そうに仕事をしている。
「久しぶり!どこ行ってたの?」
と声を掛けられ、何だか少し嬉しくなった。
今回、ラサに戻ってきた目的は、ネパール行きのビザの申請と、国境へ向けての出発。
翌日から少しずつ準備を始める事にした。
ヤクホテルでは、同室の韓国人ツーリスト、チンゴンと仲良くなった。
なすびのように細長い顔と、短髪に眼鏡、そして人の良さそうに垂れた目尻。
チンゴンは丁度兵役を終えたところで、(韓国では2年間の徴兵制度がある)ついでに大学を休学して旅をしているのだそうだ。
「どこの大学行ってるの?」と聞いてみると、
「ソウルテイハッキョ」(ソウル大学、日本の東大に相当)とチンゴン。
「テダネ!(すごいね)将来安泰だね!」と褒めると、
「アニ、アニヨ、(いや)今の時代は良い大学出ても良い働き口は無いよ。だから皆こうやって旅をして、バケーションを楽しんでいるんだ」
と笑って答えていた。
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翌日、チンゴンと2人でネパール領事館にビザを申請しに行った。
中国~インドの国境は、国交断絶で通行が出来ないので、ここチベットからはネパール以外に行く道は無い。
領事館の人も、何も聞かずにあっさりとパスポートにスタンプを押してくれた。
続いては国境までのランドクルーザーのチャーター。
ただしランクルは4人乗りなので、あと2人同乗者を探さなくてはならない。
チンゴンにアテはあるのか?と尋ねると、
「ケンチャナヨ~、ケンチャナヨ~、(大丈夫、大丈夫)隣のホテルの韓国人カップルが国境に行きたがってたから声を掛けてくるよ!」
と颯爽と出かけていった。
やはり持つべきものはコミュニティーの力である。
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とまぁ、意気揚々とランドクルーザーを予約したところまでは良かったのだが、いよいよ出発前日の夜になって、その韓国人カップルが大喧嘩を始めてしまった。
ダブルベッドがしつらえられた部屋の片隅で、気まずそうに体育座りをするチンゴンと私。
チンゴンの翻訳によると、カップルの男の子の方が、ネパール国境に向かうついでに湖に寄りたがっていて、
女の子の方は、湖に寄り道するとチャーター代も宿泊日数も余計にかかるから嫌だと揉めているらしい。
しばらくハングル語で揉めていた2人、言葉はわからないが段々険悪な雰囲気になってきたのだけは分かる。
そして、ついには男の子は部屋を飛び出して出て行ってしまった。
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状況が分からず、横にいるチンゴンに小声で聞く。
「チンゴン…、チンゴン、大丈夫?」
「ユウキ…、ケンチャナヨ…。(大丈夫)
男の子は国境へは行かないみたいだけど、仕方がない、3人でランクルを割り勘して国境へ向かおう…。」
ケ、ケンチャナヨ?
チンゴン、それ、本当にケンチャナヨ?
色々ツッコミどころの多い展開に正直不満も覚えたが、出発はもう明日、今更変更は出来ない。
最悪3人で国境に向かうしかないか…。
しかし最悪の事態はまだ続く。
次の日の出発の朝、もう一度女の子のホテルを尋ねると、部屋には鍵がかかっていて開けてくれない。
必死で声をかけるチンゴン。
「おーい!起きてくれよ!出発だよ!ランクルがもうすぐ来るよ!」
「…行かない」
「!?」
「もう国境へは行かない。
ネパールへは2人で行けばいいわ。
私は熱もあるし、体調も良くないし、とにかく今日は国境には行かないの!」
みるみるうちにドアの前で真っ青になっていくチンゴン。
思わず聞いた
「チンゴン…、ケンチャナヨ?(大丈夫)」
「ケ…、ケンチャナヨ~…」
チンゴン。
それ、全然ケンチャナヨな顔じゃないよ。
国境までのランクルは3200元、(4万8千円)4人で割れば800元だが、チンゴンと2人だと1600元だ。
とてもじゃないけれど2万4千円を支払う余裕は私にもチンゴンにも無い。
車が到着するまであと2時間、必死で近所のホテルを回った。
「誰かーっ!誰かいませんかーっ!
国境へ行きたい人、誰かいませんかーっ!」
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分かってはいたが、そうそう都合よく同乗者なんて見つからない。
旧市街のホテルを回ってすっかり疲れ果てた私とチンゴン、スノーランドカフェで一休みする事にした。
「ユウキ、ミアネヨ~…、(ごめん)僕が人選ミスったばかりに」
「ケンチャナヨ~、まぁ、くよくよしたって仕方ないよ。
コーヒー飲んだら大人しく人民銀行にお金両替しに行こう」
そうして半ばあきらめモードでふと窓の外を見渡すと、何やら見慣れないバスがスノーランドホテルの前に停車しているのが目に止まった。
じっと観察していると、ホテルから旅行者が出てきて、ドライバーと話し込んでいる。
もしや、これは…、まさか。
「チンゴン、チンゴン!ちょっと待ってて!」
慌ててカフェを出て運転手に話しかけると、案の定、バスはホテルの宿泊者を乗せて国境に向かう便なのだそうだ。
「すみません!あと2つ座席余ってませんか?僕たち困ってるんです!」
と頭を下げると、バスの運転手もツーリストも、顔を見合わせて、まぁ良いんじゃない?のジェスチャー。
捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこの事。
最後の最後で格安の乗り合いバスの座席をゲットした私とチンゴンは、大喜びでハイタッチを交わし、食べかけのチーズケーキを慌ててかきこみ、荷物をまとめてバスへと乗り込んだ。
(ランクルのキャンセル料400元は払いました)
そうして慣れ親しんだラサの街を離れ、一路バスはネパール国境へ向かう。
まぁ、なんとかならないように見えて、最後の最後にはなんとかなってしまう。
それも旅の醍醐味の一つといえば一つ…かな。
そうやって座席に腰を下ろし、チンゴンと目を合わすと、
「ケンチャナヨ、ケンチャナヨ~(大丈夫、大丈夫)」
と眼鏡の奥の細い目が笑っていた。
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⇨国境へ②に続く
【チベット・インド旅行記】#24,サキャ編はこちら!
【チベット・インド旅行記】#26,国境へ②はこちら!
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いつもエッセイを読んで頂き、ありがとうございます^^
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