保育園と恋と、時々、音楽
【日々はあっちゅーま】
#20, 保育園と恋と、時々、音楽
私が保育園で働いている時に好きだったのが、同い年のM先生で、色白で、長い髪を後ろで束ねて、前髪は切りそろえている、ふんわり見た目は森ガールな感じの女の子なんだけれども。
ジョジョの奇妙な冒険が大好きでフィギュアを集めていたり、音楽好きで、売れてないビジュアル系のバンドのライブをしょっちゅう追っかけていて。
また追っかけてるのが売れないビジュアルバンドっていう所が、なんか生々しくて。
実際、メンバーの誰それの事が好きなのかな?とか、よからぬ事を想像してしまって、ついつい勝手に嫉妬してしまう。
その頃の私はそんな淡い恋心に胸焦されていたんだ。
とはいえ、そんな私も月に1回だけ、渋谷のアピアっていう、かなりアングラなライブハウスで弾き語りライブをやっていて。
どれぐらいアングラかっていうと、ライブハウスのイチオシミュージシャンが、元スターリンの遠藤ミチロウ(1950 - 2019)で、
その昔、ライブハウスで観客に豚の臓物をぶちまけたという伝説を持っている人で、
一度だけアピアで前座やらせてもらった事あったけど、控室ではとっても腰の低い、丁寧な物腰の人だったのを覚えている。
そんなアングラなライブハウスで、アングラな音楽ばかりやっていた私に、ファンなど付くはずもなくて、月に1度ギターを背負って、観客のいないライブハウスで歌い、チケットノルマを支払って家に帰り、また次の日には保育園で子どもたちと戯れる。
そんな毎日を過ごしていたんだ。
その頃、保育園で私は工作にはまっていて、
紙コップでロケット作ったり、空き缶でギター作ったり、立体迷路作ったり、
とにかく1日1個は新しい工作をしようと、毎日仕事終わりに緑が丘駅のイオンの100円ショップ寄って、山ほど自費で材料買い込んで、夜中まで家で実験して子どもたちと遊んでいた。
おかげで、その頃園児だった子どもたちは、みんな工作大好きっ子になって、お母さんたちからはいつも「うちの子は、ゆうき先生のまねばかりして、いつも家で工作してるんですよ〜」とか言われて。
俺の保育もなかなか板について来たな〜。と嬉しくなったりもしたけれど。
でも、本当はそれだけじゃないんだよな〜。とか内心思ったりしていた。
「本当はそれだけじゃない」っていっても、月に1回、観客のいないライブハウスで歌っているだけなんだけどね。
今思えば、それを音楽活動と呼んでいいものか迷うくらいなんだけれども。
でも、当時はお客がいようと、いまいと。とにかく歌っているという事実が大事で。
まだまだ俺には何か、きらめきが残っているんだって自分に言い聞かす為。
自分のアイデンティティーを守る為。
月に1万3千円の会場費を支払って歌い続けていたんだ。
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M先生とは、他の先生も交えて一緒にご飯食べに行ったり、園の先生たちとバーベキューやったり、オフで会うことは結構多くて。
(2人っきりってのはなかったけど)
バーベキューでは、持って来たラジカセにお気に入りのアルバム代わる代わる流して、Nujabes(ヌジャベス)やtoeについて熱く語り合ったり。
絶対、M先生とはうまくいくはずなんだけどな〜。っていつも心に思っていたけれども、全然進展はなくて。
つまり私の勝手な思い込みだったわけで。
ある日、いよいよバンドを追っかけて都内に引越しをする。みたいな話を聞いて焦った私は、意を決してM先生を映画に誘って。
誘った所までは良かったんだけれども。
誘った映画が、よせばいいのに「エンター・ザ・ボイド」っていう、セックスとドラッグと輪廻転生がテーマのマニアックな映画で。
チラシを見たM先生に、めちゃめちゃ苦笑いされながら断られて。
しかもしばらく口聞いてもらえなくて、保育園に行くのがしんどかったのを覚えてる。
結局の所、本当にバンドを追っかけて行ったのかどうなのかは知らないけれども。その年の年度末にM先生は辞めて。
数年後にひょっこり園に遊びに来てくれた時に、結婚して今度、子どもも産まれるって聞かせてくれたんだ。
工作好きの子どもたちも、年長になって卒園しちゃったけれども。
頑張って工作励んだ甲斐もあってか、お母さんから、「うちの子、将来の夢はゆうき先生なんですよ〜」って教えてもらう事もあって。
ギターも習い始めたらしくて。
でも、本当は俺、それだけじゃないんだけどな〜。と思いつつも、不覚にもうるっとしてしまったのを覚えている。
結局、毎月アピアで歌い続けて、お客さん最後まで1人も増えなかったけど。
なんとか今、こうやってエッセイ描いているのも、あの頃強がって守り続けたアイデンティティーのおかげでもあるわけだから。
30過ぎた今になってようやく、「あの頃の自分頑張ってたな〜。」って、少しは褒めてあげられるようにはなってきたんだ。
(おしまい)
【保育園のお仕事シリーズ】