凸凹マガジン 〜APD(=聴覚情報処理障害)の支援について考える〜
先週から風邪を引いて食欲がなかったため体重が2kg減少するという不本意な形でダイエットの目標を達成した前田です。
#不幸中の幸い
本日のテーマは、「APD(=聴覚情報処理障害)の支援について考える」です(^ ^)
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▶︎ APD=聴覚情報処理障害
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最近、発達障害者の間でAPD(auditory processing disorder、聴覚情報処理障害)が流行っています。
これは「音は聞こえているけど、内容を聞き取れない」という症状です。
例えば、
◯パーティで大勢の人がいるところでは、隣にいる人の声を聞き分けることができない
◯人が話している言葉の一部だけがぼやけてしまう
など音自体は聞こえるのですが、その内容の聞き取り、聞き分けが困難になります。
昔はカクテルパーティー効果(大勢の中で人の声を聞き分ける力)が働かない症状と言われていましたが、近年では純粋に聞き取る力、聞き分ける力の困難がある人を全般的に指していることが多いようです。
先日、大阪市立大学の阪本浩一准教授が小〜高校生5000人を対象に大規模調査を開始するニュースもあり、今後ますます注目されそうです。
HP(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210708/amp/k10013125531000.html?__twitter_impression=true)
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▶︎ どんな症状なの?
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発達障害を抱える人の間では、数年前から「私はAPDだ!」という意見が多くみられていました。
正確な統計はありませんが、一説には4割以上の発達障害者が耳の聞こえ方に困り感を持っていると言われています。(これがAPDなのかはまだわかっていません)
先日私がTwitterにて、APDの記事を紹介すると、多くの方に拡散され、たまたまですが耳の聞こえに困っている人からのコメントをたくさんいただきました。
そして、困っている方のコメントを見ると、6つのタイプに分けることができましたので、以下で紹介します。
①周囲の音と区別することが難しいタイプ
集団の中で話すと、特定の人の声だけ聞こえなくなるというAPD症状と思われる困り感を抱えるタイプです。
このタイプの人のコメントが最も多くよせられました。
EX)
「個室じゃない居酒屋だとだいたい聞き取りがつらくなって話についていけなくなる」
「3人で外で話す時端になってしまうと、もう片側の子の話聞き取れない」
「ザワザワした場所で声が聞き取れなかったり、会話の途中で相手が何を発してるのか分からなくなる時とか、文章が途切れ途切れに聞こえる時がある」
②一対一で話しているけど相手の会話が聞き取れないタイプ
①とは異なり、周囲の雑音はないのに、相手の会話が聞き取れないタイプです。
シンプルに音の聞き分けがうまくできないという人であり、この症状で困っている人も多くいました。
「集中して聞いてるのに全然聞き取れなくて『聞く気がないならもういい』と言われる」
「旦那の声が聞き取れない事有り。一定の音域が聞き取りづらくなってるのかと思ってたけどAPDかも。聴力検査は異常無し。」
「全ての音が同じ音量&重さで聴こえてくる。その為役所などでの重要な手続きの際などは、個室や静かなところで手続きさせて頂くこともよくある」
「母音の雰囲気とか抑揚だけ聞き取れたものは、考えて時差で理解できたりする。超小さい音でピアノ弾いた時ラだけ聞こえなくてびっくりした。ほかの日にはソ#だったこともある。」
③言われていることは分かっているが頭の中の理解が追いつかないタイプ
これも意外と多かったのですが、言われていることがわかるけど頭の中で理解が追いつかないというタイプです。これは音声の情報処理の力が低いのか、聴覚的ワーキングメモリが低く、頭の中で一瞬理解できても覚えていられないことが原因なのか不明ですが、このような人もいるようです。
EX)
「長電話したり、長時間面談したりすると、後半 聞いてるのに覚えてない…(聞こえるから返事するけど脳みそがボーッとして全く頭に入ってこないのが分かる)ってことが多々ある」
「人の声がしてるのは分かるのが、なんて言ってるのかわからんことがある。電話だとあんまりない気がする」
「音として認識できても言葉として認識しづらい。聞き取れるけど残らない。思い出すのが苦手」
④聴力自体が低いタイプ
元々聴力が低いことで、聞くことが苦手になっている方もいました。
単純に聞こえの能力が低いので、聴覚障害の延長とも考えることができると思います。
EX)
「全然聞き取れてないけど、聞き取った風に相槌打つとか誰しもやってる当たり前のことだとばっかり思ってた」
「私も雑音が入ると全く聞こえないタイプです。聴力検査で何度も怒られています。怒られても聴こえません。」
「ちゃんと聞いていたけど忘れちゃった、ってしょっちゅう言ってるし。 新生児の時も聴覚検査引っかかってる」
⑤相手の口元が見えないと理解が難しいタイプ
人は、相手の声を聞くときは、相手の口の動きを同時に見ることで話している内容の理解を視覚の力を使って補助していると言われています。
現在は、マスク着用が常態化しているので、この視覚的な補助情報が少なくなったために、聞き取れなくなる人もいるようです。
EX)
「マスクして話された時。もう何言ってるのかさっぱり分からず。かなり視覚優位(+過敏)なので、口唇術のようにして言葉を理解していた模様」
「コロナ以降は"口の動きも併せて推測する"ということもできなくなったので、更に難易度あがったんよな」
⑥不安になると聞き取れなくなるタイプ
ソワソワしたり不安になると、相手の話を冷静に集中して聞けなくなる人は多いです。
周囲の圧力や不安が原因で、聞き取ることが難しいタイプとしました、これがAPDになるのかは専門家の意見にもよりますが、ASDを抱える人には現場感覚では多いので、これも困り感として確立してほしいと思います。
EX)
「圧力を感じると頑張って聞き取ろうとしても聞き取れず、相手を苛立たせる」
「小学校高学年の時に一時的に強い症状がありました。何度も何度も友だちに聞き返していて、でも聞き取れなくて、適当に相槌してました」
以上6つのタイプの紹介でした。
聞こえの苦さにはも色々な種類があることが伺えます。
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▶︎ 原因と支援方法は?
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上の6つのタイプ別にAPDの原因を考えると、以下のようになります、
1、複数の音の中から聴きたい音を抽出する聞き取りの力(カクテルパーティー効果)の課題
2、会話を聞き取れず理解ができないという聴覚情報の処理の課題
3、聴きたい音に注意を向けるのが苦手という注意力の課題+聞こえているが頭の中に残らないという聴覚的ワーキングメモリの課題
4、シンプルに音自体が聞こえないという聴力の課題
5、マスクで口元が見えないなど、視覚的補助がないことで本来の苦手さが出ているケース
6、不安性の強いことで、思考が停止しやすいために、聞く力に影響が出ているケース
APDに該当するのは、1と2が予想されますが、それ以外にも様々な要因が絡み合っている可能性があります。
また、以下では上記のタイプを元に支援方法を考えてみます。
①ノイズキャンセリング機能付きのイヤホン
ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンは、騒音、機械音をカットして人の声だけ聞こえるようにしてくれます。そのため、APDの人でも、会話に必要な情報だけに集中できるので効果的だと考えられています。
最近はAirPods Proなど小型イヤホンにも搭載されるようになりましたので、比較的実地しやすい支援になりそうです。
②何度も教えてもらう
内容を聞き取れなくても、何度も教えてくれれば、それで内容を理解することができます。
APDの人は、「聞く気のない人」と認識されてしまうことが多いので、最初からAPDであることを相手に伝えて理解を得ておくことで、困り感の解決につながりそうです。
③補聴器
聴力自体に苦手さを抱えるケースでは、補聴器の活用が考えられます。
聴力の課題に加えて、APDの症状を合併している人もいるようですので、聴力と聞き分けの力の双方に支援が必要そうです。
補聴器+ノイズキャンセリング機能を持ったアイテムが出ることを期待したいですね。
④チャットやメールで会話する
どうしても音声情報で会話をすると、伝わらない時はチャット、メールなどテキストベースでの連絡の方が良いです。
情報として視覚化されますし、情報も残りますので、相手も何度も説明する必要がないので、重要度が高い内容ほど、テキストベースで伝えることが必要になりそうです。
テレワークが進んでいる現在であれば、むしろテキストベースでのやりとりが増えていますので、APDの人にとってはむしろ仕事環境は良くなっているのかもしれません。
⑤安心できる環境
これはAPDの人に限らない話ですが、どんな人でも焦ったり不安になると、いつも通りのパフォーマンスが出せなくなります。
過度なプレッシャーや圧力を減らし、安心して穏やかにコミュニケーションを取れる関係性、環境を意識することで、どんな人も本来の聞く力を発揮することができ、コミュニケーションミスも減るでしょう。
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▶︎ 発達障害とAPD
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上記では、耳の聞こえで困っている人の声をまとめて、支援を考えました。
それ以外でも、発達障害を抱える人は、聞こえに困り感を抱えるケースが多いので、一例を紹介します。
①会話内容に興味がない
ASDを抱える人は、興味関心に偏りがあることが多いです。
そのため、共通の話題で会話が進んでいる時に、興味がない話題になると、途端に注意力が低下して、よく聞こえなくなるケースがあります。
ASDの子に先生が話しかけても全然反応しないが、電車の音が外からするとダッシュで窓に向かうと行った行動はよくみられます。
②雑談が苦手
また人に対する興味の低さもあると、雑談など仲を深めるコミュニケーション全般に集中力が高まらないので、聞き取れないことは多いです。
このような面にも理解をしていく必要があるかと思います。
③ワーキングメモリの低さ
ADHD症状はワーキングメモリの低さが要因であることはよく知られていますが、頭の中に情報を記憶しておくことが苦手なので、話題が2つ目、3つ目と進むにつれて、頭の中に保持できない=忘れてしまう、という状況は多いです。
会議でホワイトボードに整理しながら話し合いを進めると、覚えておく必要がないので、スムーズに話し合いができたりしますので、記憶の外部化を意識すると聞こえの苦手さへの支援にもなりそうです。
④脳内多動
また、ADHDを抱える人には脳内多動が多い人もいます。会話の時も頭の中に常に何か考え事をしたり、音楽が流れていたり、場面が思い浮かんだりしているので、目の前の人との会話を妨害されてしまうことがあります。
このように、発達障害の人にAPDを抱えるケースが多いのは、固有の特性が聞こえに影響していることが多いのかもしれません。
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▶︎ まとめ
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今回は「APD=聴覚情報処理障害」の紹介でした。
今回は、Twitterに寄せられた情報を元にして書いているため、全文公開の状態となっております。ご興味あれば、他の記事もご覧ください(^ ^)
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こども発達支援研究会代表理事 前田智行のメールマガジンです。 ・小学校で教員をしたり ・放デイ・児発で幼児〜高校生に療育・学習支援をした…
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