【観劇レポ】おぼんろ「かげつみのツミ」
おぼんろ幕間の物語「かげつみのツミ」
かげを積むように、摘むように、紡ぐ、人形たちの物語。
物語
玉どめを、外した。リッパーはいらないわ。
今夜この瞬間から私はなるべく喋るし、笑うし、
たまに泣くかもしれないし、動いたりもすると思う。
ただの布と中身だけだった私を縫い合わせて私を人形という
上等な存在にしていたこの糸は、
きっと、そんなこんなでちょっとずつちょっとずつほどけていく。
私、再びなんでもないものになるの。
ただし、私は楽しみにしています。
だって、どうしても知りたいのです。
私の中に詰まっているものが、一体なんであるのかについて。
-おぼんろHPより 転載
「きゅるたむ~」
不思議な言葉を発する白いクマ(のような生き物?)に案内されるがままに階段を降りると、ぽっかりと広がった空間がありました。サーカスのテントのようでもあり、こども部屋の中に作った秘密の基地のようでもあり。
渡されたカードには「かいじゅう」と書かれています。どうやらほかに「パズル」「つみき」「かざぐるま」のカードがあるようです。
先ほどの白いクマ(のような生き物)や黒いマントを着た人(?)があちこちでにぎやかに話しています。
「ようこそ~」向けられた笑顔に気分がうきうきしてきます。
不意に部屋のきらめきが大きくなり、にぎやかな音楽が始まりました。
ドラムの生演奏も。2mほどしかない通路ではアクロバットやバトントワリング、激しいダンスが行われます。物語が紡がれはじめました。
ここは、”ドルグーミンの地下室”でした。
ご主人様と離れたり、役目を終えたり、いろいろなことがあってたどり着いたぬいぐるみたちの場所です。
「ぬいぐるみはひとりで眠ってはいけない」そんな言葉から語られ始めた物語は。。。
*****
「美しいのに悲しい歌 悲しいのに大切な歌」
ご主人さまと一緒にいたかったという物語。
人形は歳をとらないのに人間は歳をとってしまうという物語。
ご主人様に愛されたかったという物語。
時に場所を変え、部屋を変え、語られるさまざまな人形たちの物語。人形たちにとってはご主人様が世界のすべてだったのです。どれもがとても魅力的でそして悲しみが詰まっていました。
実は私は去年、30年を越える人生の中で増えすぎて屋根裏部屋でほこりをかぶるままだった人形を供養してもらったのです。お寺に持って行って、お経をあげてもらって、手放した彼らは燃やされたのか。せめてものありがとうを伝えたはずでした。でも物語を紡ぎながら、なんでもっと手元に置いておけなかったのか、どうしてずっと屋根裏部屋に押し込めておいたのか、きっとみんな仲良くしたかっただろうにどうして二つに分けて喧嘩をさせてしまったのか、と色々な想いが浮かんできました。そうしたらもう、涙が止まらなかった。目の前で演じられている慟哭が笑顔の裏に隠した悲しみが。
「できれば自分本位のやり方で、みんなを幸せにしたい」
でもそんな悲しみを抱えたぬいぐるみたちの想いは最後に影に姿を変えます。目に見えるようになるという方が正しいのかな。
影という言葉にどんなイメージを持ちますか? 暗い? 重い? 怖い? 光があるから影ができるのです。みんなの優しい影のために光を呼び込んだ存在のこと、想像できる中でもっとも美しい影にあふれたフィナーレに見た光景を私はずっと忘れないでしょう。
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語り部に連れられて場所を移動し、その場所にしかない物語を目撃する。それぞれのルートによって知ることのできる物語が違うため、最後の解釈が変わっていく、という形式のものでした。没入感の意味ではイマーシブシアターだけど、なんというか、おぼんろスタイルとしか言いようのないもの、だそうです(友人談)。でも、そんな形式的なことはどうだっていいのです。
一緒に物語を紡ぐこと、その体験のすばらしさときたら。心に残ったあたたかさと少しの痛みときたら。
「パズル」「つみき」「かざぐるま」。体験しなかった他のルートもぜひ見てみたかった。
そして間近で見たダンス、アクロバット、エアリアル、バトン、ドラムスのすばらしいこと。あんな狭い空間であんなにダイナミックに見られることはほかにないんじゃないだろうか。
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最後にどうしても書き残しておきたいこと。
最後の主宰のご挨拶にグッときました。
歳をとらない人形と、歳をとる人間の美しく悲しいお話を聞いた後に、クマの恰好をした人は
「僕らは一緒に歳を取りましょう!来年もその次も会いましょう!白いものが増えたねとか腰が曲がってきたねとか言いましょう!ずっと一緒に!また物語を紡ぎましょう!」
そう言うんです。すごくずるい。表現したい、伝えたい、そんながむしゃらな熱が届いてきて、何よりもその挨拶が心から離れなくなりました。
素敵な物語。優しい物語。悲しい物語。また、一緒に紡ぎたい物語でした。
打ち上げやるらしいよ!