短々エッセイ:のぞみは何よりも早く

このご時世ということもあり,長らく電車というものを使っていなかった.

そして久々に,同じ県内にある実家に帰るために電車を,それも新幹線を使った.

車を持っていない僕にとって,自転車以上のスピードで動く乗り物に乗って遠くへ移動するのは久しぶりだった.

人のいない待合室に座ってすぐ,列車が到着したことを告げる放送が響く.

何ヶ月ぶりかに聞いたアナウンスは,正確に到着ホームと終点を告げている.

録音されているものかどうかに関わらず,当たり前に流れる音声には,思わず頭が下がる.

こだまが到着し,中に乗り込む.

一番後ろの席に座り,今までに無いくらい座席を倒した.

あえてこだまの切符を取ったのは,少し時間を遠回りに使いたかったからだ.
心身が乱れてしまっているこの頃は,このくらいの速度でちょうどいい.

どうにかして早くよくなってほしい 
この状況を打破したいと思っても,
時間は決まった通りにしか進まない上に,数々の障壁が立ちはだかっている.

それは今の仕組みが簡単に変えられないことだったり,それこそ時間とお金がないとできなかったりすることが原因だ.

でも,僕たちの頭の中で浮かぶことは簡単に時間だって制約だって飛び越えてしまう.

だから,後追いで追っかけてくる光や音なんかを操る技術が生まれてきた.

先に望みがないと考える人がいるなら,先には望みしかないと考えてもいいはずだ.

いろんな楽しみや,待ち遠しかったものが消えてしまった今年は,新たな楽しみを作り出せる期間になる.

きっと来年はもっと面白く楽しいものが,新しい方向からやってくるはずだ.

何よりも速く,望みは先へ向かっている.

だから大丈夫なのだ.

無責任に未来を信じているうちに,電車が目的地に到着した.

ちょっとのんびりした時間は,心にこだまする声を整理するにはちょうどいい.




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