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クレイヴン・ザ・ハンターを観れば分かる「SSU凋落の原因」

今年初めの映画は『クレイヴン・ザ・ハンター』。
昨年12月の東京コミコンでポスター付きのムビチケを買って以来、行く機会を伺っていたけど結局年明けになってしまった。

このクレイヴン・ザ・ハンターという作品、アメコミが原作でソニーピクチャーズのソニー・スパイダーマン・ユニバース(SSU)シリーズの1本というのは知ってはいたが、どんな内容なのかは全く知らない状態で鑑賞した。

あらすじはこうだ。

主人公のセルゲイ・クラヴィノフは旅行先のアフリカでのハンティング中に、ライオンに襲われ瀕死の重傷を負う。その際に偶然居合わせた少女カリプソの持っていた秘薬を飲んだ事とライオンの血が体内に入った影響で、セルゲイはスーパーパワーを持つようになる。
それから16年後、セルゲイは「クレイヴン・ザ・ハンター」と名乗り、密猟者から野生動物を守るシベリアの守護者となっていたのだった。
角を取る為だけに水牛を撃ち殺す、邪悪なハンターたちを素手でバッタバッタと薙ぎ倒すクレイヴンは、さながらシベリアの荒野を守る野生の王者のようである。
動物パワーで悪いハンターを懲らしめる様は往年の少年ジャンプ漫画『ジャングルの王者ターちゃん』を彷彿とさせる。

いや…いわば「シベリアの王者クーちゃん」か!(やかましい)




物語の軸はもう一つあって、ラッセル・クロウが演じるクレイヴンの父ニコライと敵ヴィランのライノがマフィアの縄張り争いで敵対しており、セルゲイの弟のディミトリがライノに誘拐される。
クレイヴンと弁護士になったカリプソが力を合わせてディミトリを救い、ライノ率いる組織と対決する、というものだ。

この物語の2本の軸が上手く絡み合っていれば面白い映画になったかもしれない……けれど、残念ながらそうはならなかった。
ここからはその理由を説明していく。

まずは主人公クレイヴンの家族関係の設定とストーリーについて。
ラッセル・クロウ演じる父ニコライはロシアンマフィアのボスで、ゆくゆくは後継者として育てようと息子のクレイヴンやディミトリに対して厳しい態度を取っている。
弟のディミトリは人の声色を真似るのが上手くミュージシャンとしての才能はあるが、気弱な性格のため父からは評価されず、コンプレックスを抱いている。
この親子関係、兄弟関係の愛憎交えた物語はゴッド・ファーザー的とも言えるが、クレイヴンの野性的で自然の力をバックボーンにしたキャラクターとはあまり相性が良くないように感じた。
というのもクレイヴンが結局何をしたいのかがイマイチ伝わって来ないのである。自然の守護者として亡き母の故郷を守りたいのか、抑圧的な父の呪縛から自分や弟を開放したいのか、ただ単に家族に危害を加える相手をブチ殺したいだけなのか、物語の着地点がフラフラと定まらないまま進んでいくためストーリーに没頭することが難しいのである。

次に敵キャラクターの魅力の問題だ。本作のヴィランであるライノがあまり魅力的に描けていなくて、物足りなさを感じた。
ライノの見た目はリュックを背負ったサラリーマンにしか見えないし、リュックの中の薬が切れてサイ人間に変身した後も、力任せに暴れるだけで劣化ハルクのようだ。
ライノが主人公一家を憎む理由も「若い頃にニコライに無視されたから」と実にしょうもない。

通勤中のサラリーマンことライノ(地味)

ライノの手下で催眠術を使うフォーリナーも超地味な見た目で、全然強そうなキャラに見えない。
一応ライノと同等の強さを持ったボス格の一人のような扱いだったが、後半に呆気なく退場してしまい何のためにいたのかよく分からないキャラとなってしまった。

ライノの右腕ことフォーリナー(地味)

この「ヴィランが役者不足」という問題は『モービウス』『マダム・ウェブ』『ヴェノム』シリーズでもあったが、結局最後まで改善される事は無かった。
思うにSSUが持つ最大の問題はここにあるんじゃないかと思う。
スパイダーマンのヴィラン達を単体映画にして、最終的にSSU版スーサイド・スクワッドといえる「シニスター・シックス」結成までを作る計画だったが、そのヴェノムやクレイヴン達ヴィランで面白い作品を作るには「ヴィランのライバル」も魅力的に描かなくてはならない。
スパイダーマンは人気シリーズなだけあってヴィランの種類は豊富だが、一本の映画の中心に据えるにはいささかチョイスが小粒すぎたのだ。
(結局シニスター・シックスはキャンセルされた模様)

考えてほしい。クレイヴンとライノという一般的に見て知名度の低いキャラクター同士の争いを誰が観たいというのか?
アーロン・テイラー=ジョンソンやラッセル・クロウといったスター俳優がどんなに頑張っても、そもそもの脚本とキャラクターに魅力が足りないと言わざるを得なかった。
結局ヴェノムもクレイヴンも、スパイダーマンと絡まないならあんまり観る意味なくね?という身も蓋もない結論になってしまうわけだ。

世間の評価も似たようなものらしく、劇場公開から段々と上映回数は減り続け、地元の劇場はもう打ち切りとなってしまった。
公開をスルーしていきなり配信送りになる洋画が増えてきている昨今、劇場公開してくれるだけでもありがたいのかもしれない。が、このままではスパイダーマン本編の勢いすら殺しかねない現状は憂慮すべきだと思う。トム・ホランド主演のスパイダーマンシリーズはまだ続くみたいだしね。


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