続、続 アート市場はどうなるか
アートフェア東京2021へ行きました。
一言でいえば、「買うぞ」という熱波を感じるフェアでした。
人気がある作家さんの作品はすべて赤丸(売却済)。即完売だった作家さんもいます。支払いの手続きをしている光景をいたるところで見かけました。出展しているギャラリーのスタッフによれば「コロナの影響で出足は少ないが、まとめ買いをする人がいるなど、販売は好調」と。
購入者を見ていると若い人も多いような気がします。展示されている作品は現代アートが中心です。アートの裾野が広がる予兆を感じました。
入場券を買ってまでフェアに行く理由は様々でしょう。私の場合には、購入より鑑賞。在廊する作家さんも多く、多種多様な作品を見ながら、その作家さんと話しをする。そうすると、自分の趣味嗜好を確認できる、というものでした。
しかし、見ていると欲しくなります。福沢諭吉が飛んでいく魔法のカードはしっかりガードして、会場を後にしました。
その後に訪れたのは池袋の百貨店。若手作家のグループ展が開催されており、以前から気になっていたある作家さんが在廊されると聞いていましたのでの、その作家さんから作品に対する考え、制作方法、今後の方向性、などを聞くために行きました。
行ってみて、おや、と思ったのは百貨店の展示会特有のトラディショナルな額装がすべての作品にされてないことです。作家さんたちから、百貨店での展示会では額装を求められる、と聞いていましたから百貨店のスタッフの方に聞いてみました。
「池袋店のアート売り場では、伝統的な絵画展しか見たことがありませんがが、これは初めてのことですか」
「池袋では初めてです。現代アートというと渋谷が発信地の1つなので、渋谷店では開催したことがありますが、池袋店では初めてです」
「額装もされてませんね」
「現代アートには普通の額装は向きませんので」
「ターゲットとする顧客層を変えたのでしょうか」
「はい、池袋店でも若いお客様の趣味嗜好にあった作品も販売していこうと」
金曜日に日銀の金融政策が発表され、日銀によるETFに対する方針が変わったこともあり株価は下がりましたが、政府の財政出動もあり市場にはマネーがだぶついています。巣ごもりのせいで、消費したいとマグマもたまっています。
フェアで感じた「買いたい欲求」、スタッフから聞いた「まとめ買い」、池袋店での購入ターゲットの変更、アート市場での地殻変動が起きそうな兆候のようです。
これまでアートに感心が薄かった人たちが、巣ごもりが長引いたこともあり、ネットとかでアートに触れる機会ができ、アートの購買層に変わりつつあるようです。対象作品は現代アート。一部の人気作家さんの作品は、ウェイティングリストで、その作家さんの制作を待っている状態も起きています。
若い購入者は、人生まだまだ先がありますから、作家さんが制作を止めてしまう、あるいは作風を変えてしまう、というようなリスクは許容範囲ですし、そもそもその時に気に入ったものを購入しているので、リスクとは思っていないことでしょう。
一方、供給側の作家さん。今はネットで自身の作品を自由に披露できる環境です。若い作家さんたちは、例外なくインスタをしています。見る側としても、その作家さんの過去の作品をスマホを通してインスタで直ぐに確認することができます。
需要のマグマがたまっているこのとき、供給側は何をすればいいでしょうか。自分の思いを作品で表現するだけでなく、このマグマの波に乗ることもあるのではないでしょうか。
80年代の洋楽業界では、「産業ロック」と揶揄されたバンドがいくつかありました。マーケティング上の都合からメロディラインが覚えやすくリスナーに受け入れられやすい曲を作る「Corporate Rock」とも呼ばれていました。
しかし、結果として、そのようなバンドは今も生き残り、活動を続けています。ロック界のクラシックとなっています。
「売れる作品」を制作するというのは邪道でしょうが、歴史上は宮廷画家、宮廷作曲家、もいました。
それはともかく、アート市場の潮目が変わりつつある、とアートフェアと池袋で感じました。
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