【BL二次小説】 キミに触れたくて①終
「伸ばしてンのォ?髪ィ」
いい感じにほろ酔い加減な靖友が、オレの前髪をツンツンと引っ張る。
「ああ。もう少しで結べるんだ」
オレの前髪は今、顎ぐらいまで伸びている。
「伸ばすのは構わねェけどヨ。間違ってもカチューシャなんか使うなよ。いいな」
「ははっ。当たり前だろ」
わざわざ尽八を思い出させるようなこと、するわけがない。
髪を伸ばしているのは……靖友の気をひくためなんだから ──。
酒が呑めるようになった大学2年生。
オレは時々、靖友を呑みに誘う。
今夜もbarのBOX席で、コの字型のソファに並んで座りながら二人で呑んでいる。
居酒屋じゃダメだ。
明るくて騒々しくて、ムードも何もありゃしない。
やっぱりbarだ。
薄暗くて静かで、こうやって……密着出来る。
……高校時代からオレは、靖友しか目に入っていない。
しかし、告る勇気がない。
フられるのが怖い。
だけど、会いたい。
会って、こうして二人きりで、なんとなくいいムードで過ごすのが、今はとても心地好い……。
オレには、ここまでが限界だ。
情けない。
でも、フられたらこんな時間を過ごすことも出来ない。
これで、いいんだ……。
「ン~」
「何してんだい」
「三つ編みィ」
靖友がオレの前髪をひと束つまんで……細い三つ編みを結っている。
店内が薄暗いから、靖友の手と、顔が、ああ……こんな近くに。
髪を伸ばして正解だった。
靖友は高校時代から、オレの髪をよく触ってきた。
赤くて、サラサラで、フワフワなのが触り心地イイって。
オレは靖友に髪を触ってもらうのが、とても好きだった。
……後から聞いたんだが、オレの髪は靖友の飼い犬と似てるんだそうだ。
でも、そんなことはどうでもいい。
靖友に気に入ってもらえるんなら、犬と同列でもなんでもいいんだ。
なんならバター犬にだってなってやるさ。
……やべぇ。
そんな想像したら勃っちまう。
「……」
靖友はトロンとした目で、オレの前髪を一心不乱に編んでいる。
もう3本目だ。
「……」
オレは靖友の顔を、じっと見物する。
近い。
靖友の吐息から、酒の香りがする。
ちょっと口を突き出せば、キス出来そうな距離だ。
ああ、靖友の唇……。
なんて美味しそうなんだろう。
吸い付いてしまいたい。
だが、そんなことは許されない。
見るだけで我慢だ。
前髪を結う靖友の指が、時々オレの顔に触れる。
オレはその部分に全神経を集中させる。
唇がダメなら、せめて、その指にだけでも……キスさせてくれないか……。
いや、ダメだ。
我慢だ。
「オメ、彼女出来たァ?」
「え?」
4本目の三つ編みを作りながら靖友が尋ねる。
「……靖友は?」
「オレが聞いてンだよ」
「なんで毎回同じこと……聞くんだよ」
「オメーが毎回答えねェからだろ」
「おめさんだって答えないじゃないか」
「オメーが答えたら答える」
「……じゃあ答えない」
「ンじゃオレも答えねェ」
女の話なんかしないでくれよ。
せっかくおめさんと二人きりなのに。
靖友は……彼女居るんだろうか。
気になるけど……聞きたくない。
知りたくもない。
だから、靖友が毎回質問に答えないことに安堵する。
考えないようにしているんだ。
考え始めたら嫉妬で気が狂いそうだから。
二人で居る間は……二人だけの世界でいさせてくれよ。
「出来たァ」
靖友は満足げに手を離した。
「……」
オレの前髪は十数本もの三つ編みだらけになってしまった。
「ドレッドヘア。……似合わねェ。ギャハハ」
「このままじゃ電車で帰れねぇよ」
「じゃア……」
「ん?」
「……いや、なんでもねェ」
靖友は何か言いかけたが飲み込んだ。
オレは、「電車乗れないからおめさんのとこ泊めてくれよ」ってのどまで出かかったけど、グッと堪えた。
泊まったりしたら……理性を保てる自信がねぇ。
「ほどこっか?」
「いや、帽子あるから」
「帽子あったのかヨ!」
靖友はなぜかガッカリしている。
オレは、せっかく靖友が結ってくれたドレッドをほどきたくなかった。
「ンじゃ……またナ」
「ああ……おやすみ」
オレ達は駅でそれぞれの路線の改札に向かい、別れる。
また、お互いバイト代が入った頃、呑みに誘おう。
……今回も、告れなかった。
でも、靖友が一緒に呑んでくれるだけで、いいんだ。
この関係が続いてくれる日まで……。
おしまい
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