【BL二次小説(R18)】 共に堕ちて⑮
翌日から二人はスロプロを辞めた。
煙草もライターも灰皿も捨てた。
だが、あれから数日経つがアパートに引きこもったままだ。
一応求人誌をいくつか仕入れ吟味してみたものの、どの仕事にも全く興味がわかなかった。
履歴書も買って来たが、封も開けていない。
「……」
「……」
ただただ時間だけが過ぎていく。
二人ともどんよりと落ち込み、口数も減ってしまった。
「オメー……実家帰った方がイイんじゃね?」
机でボーッとネットを眺めている新開に声を掛ける。
新開と離れたくはないが、悠人にもバレている以上、さすがに心配である。
「嫌だ。実家に帰ったりしたら、もう二度と家から出してもらえない」
「……アア、そーゆーの、あるよナ」
家柄の良い新開だ。
帰ったらそのまま実家に拘束され、きっとどこかのお嬢様と強引に結婚させられてしまうだろう。
そんな事態は、荒北にも耐えられない。
「ハー……」
荒北は溜め息をつき、ソファの背に頭を乗せた。
「……靖友」
マウスを持つ手を止め、新開が呼んだ。
「ン?」
「これ……」
新開はPCのモニターを指差している。
荒北はソファから立ち上がり、新開の背後からモニターを覗き込んだ。
「!……福ちゃん」
新開が開いていたサイトは、福富レーシングチームのホームページだった。
ズキン、と胸が痛む荒北。
まだ先日の心の傷が癒えていない。
「これが……どしたン?」
「募集……してるんだよ。こんな時期に」
「募集?ナンの?」
「……新メンバーの……」
「!?」
モニターには、新メンバーの募集要項が映し出されていた。
入団テストの条件が箇条書きされている。
……ざわっ。
荒北は、血液が自分の身体を駆け昇るのがわかった。
「……」
「靖友……」
二人はどちらからともなく顔を見合わせる。
「一緒に……応募しないかい?」
「……!」
新開の言葉に、全身に鳥肌が立った。
心臓の鼓動が速くなる。
「靖友が一緒に走ってくれるんなら……オレ……」
「……」
「寿一と靖友が居てくれるんなら……オレ、きっと……」
「バカチューシャが……居ねェ……」
「尽八まで揃えろなんて贅沢言わねぇよ。3人でも箱学メンバーが揃ってりゃ、もう……充分じゃないか」
「けど……チャリ辞めてだいぶ経ってる。身体が……」
「入団テストは来月だ。まだ1ヶ月ある。今からすぐトレーニング始めれば……」
「間に合う……かナ」
「間に合うさ。ヘビーだけど。かなり。ははっ」
福富と、新開と、荒北と。
3人でまたロードレースが出来る……!
(そんな事が、現実に……!)
荒北はカーッと身体が熱くなってくるのを感じた。
それは新開も同じだった。
「チャリ……買ってこねェと……」
「ああ。ウエアもメットもトレーニングマシンも……一式揃えるだけでも大変だ」
「じゃア……今から買いに行くか」
「すぐ行こう!!」
二人は慌ただしく着替え、財布を持ち、先を争うように玄関を飛び出した ──。
~翌月~
入団テスト当日。
二人は福富レーシングチーム本部の門前まで来ている。
この1ヶ月、血を吐くような特訓を重ねてきた。
しかし、苦しいとは全く思わなかった。
「……緊張するゥ……」
「大丈夫さ。追い返されたりしないよ。……多分」
二人とも足がすくんでいる。
なかなか門をくぐれない。
「なんと!……驚いたな。貴様たち本当に現れるとは」
背後から声がし、二人は振り向いた。
「東……!」
「尽八!!」
ゴロゴロとスーツケースを転がして、東堂が立っていた。
「なんでオメーが!」
「こんなとこで何を?」
驚く二人。
「久々に会ったのに挨拶も出来んのか相変わらずだな貴様ら。……入団テストを受けに来たに決まっとろう」
そう言って前髪をかき上げる東堂。
「入団テスト?」
「おめさんもHPを見て?」
東堂は憤慨しながら答える。
「本当は受ける必要など無いのだ!フクの奴!人をスカウトしておいて入団テストも受けろなどと!無礼極まる!」
「スカウト……!」
「寿一が……」
「だが、そんなもの軽くクリアしてやるわ!見ておれ!わははは!」
「……」
「……」
ずいぶんと久しぶりに聞く東堂の自信満々な口上。
あまりの懐かしさに、二人の瞳に涙が滲んできた。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?