【BL二次小説(R18)】 共に堕ちて⑭
福富は二人を店舗裏の駐車場の隅へ連れ出した。
「……」
「……」
動揺している二人。
まさか、福富が現れるとは夢にも思っていなかった。
「じゅ、寿一……。なぜオレ達がここに居るって……?」
「悠人から相談を受けた。オマエがチャリを辞めた後、実家にも帰らず荒北とパチンコ屋で遊び呆けているとな」
「悠人が……」
「……」
悠人にバレていた。
新開はショックを受け、うなだれる。
シュッ!
「!」
「!」
ガッ!!
バキッ!!
ガシャン!!
ガシャーン!!
福富がいきなり二人を殴った。
フェンスまで吹っ飛ばされる二人。
「なにをやってんだオマエらは!!」
福富が怒鳴った。
「う……」
「ウウ……」
地面に倒れている二人。
頬が痛い。
口の中を切ったようだ。
頭がクラクラする。
昔から福富は厳しく、怒鳴られたりすることは何度かあったが……。
殴られたのは、二人とも初めてだった。
現役アスリートのパンチは、鈍った身体にはさすがに効く。
常連客達が何だ何だと遠巻きに様子を窺っている。
「あの二人が無抵抗でボコられるなんて……」
「あのライオン頭、どんだけ強いんだ?」
「寿一……」
新開は片肘をついてヨロヨロと起き上がりながら言う。
「オレが……誘ったんだ。暇で暇で仕方ねぇから、パチ屋でも行こうって。靖友は、何も悪くねぇ」
「!」
フェンスに掴まりながら驚く荒北。
「何言ってンだ新開!違うぜ福ちゃん!オレだ!オレが誘ったンだ!何も知らなかった新開を、オレが引き込んだ!オレが悪いんだ!」
ポロッ、コロコロ。
その時、新開の上着のポケットから煙草の箱が転がり落ちた。
ピクッ。
それを見て、福富は目を見開き、こめかみがひきつる。
「煙草……だと?」
慌てて荒北が説明する。
「オレが吸わせたンだ福ちゃん!新開は嫌がってたのに、吸ってみろってオレが無理矢理!」
「違う寿一!オレが吸ってみたい教えてくれって頼んだんだ!靖友はやめとけって止めた!なのにオレがそれを聞かず……」
「どっちでも同じだ!!」
怒鳴られ、黙る二人。
「オマエ達のやってることは、ただの現実逃避だ」
現実逃避 ──。
その通りだった。
わかってはいたが、こうして改めて他人にハッキリ言われると、胸に刺さる。
「新開」
福富は新開を見下ろして言った。
「戻ってこい。オマエはこんな所に居るべき人間ではない」
「!」
「!」
── ドクン ──
荒北の心臓が跳ねる。
血の気が引いた。
(新開と引き離される……!)
恐れていた時が、ついに来てしまった。
しかし、新開は首を横に振る。
「だめだ……。だめなんだよ寿一……。もう、チャリには乗れねぇ……。箱学の時みたいには、乗れねぇんだ」
新開の瞳から涙がこぼれた。
「靖友も尽八も居ないロードは……オレにとって、もう……苦痛でしかねぇんだよ……」
肩が震えている。
「まだオレが残っている。……オレだけでは駄目なのか」
「箱学のメンバーが揃ってなきゃ……だめなんだ……」
新開の涙がポタポタと地面に落ちる。
それを見て、たまらず口を挟む荒北。
「やめてくれ福ちゃん!嫌がってンの無理に乗せても実力は出せねェ。もう勘弁してやってくれ。頼むよ」
「荒北……」
荒北の方に向き直る福富。
「……オマエはまた、あの頃に戻ってしまったのか。オレと出会う前のオマエに」
「!!」
その言葉にショックを受ける荒北。
「福ちゃん……!」
荒北の瞳にぶわっ!と涙が溢れた。
「帰りてェよ福ちゃん!チャリ部の頃に!」
ゴン!
荒北は地面を拳で殴り、叫んだ。
「福ちゃんがいて!新開がいて!東堂がいて!息がピッタリだったあの頃に!王者だったあの頃に!オレ達が!一番光輝いていたあの頃に!」
滝のように流れ出す涙。
顔をぐしゃぐしゃにし、ずっと溜め込んでいた思いをぶちまける。
「箱学に帰りてェよ福ちゃん!箱学ン時が一番良かった!箱学がイイんだ!箱学がァァ!!」
「靖友……」
泣き喚きながらゴンゴンと地面を殴る荒北。
その手を握ってやめさせる新開。
そんな二人を見下ろし、福富は静かに言い放つ。
「過去の栄光にとり憑かれているうちは、前に進むことなど出来ん」
福富は二人に背を向け、歩き出した。
「福ちゃん!」
すがるように両手を伸ばし呼び掛ける荒北。
しかし福富は振り返らず、立ち去って行く。
「福ちゃん!福ちゃアアァァん!!」
箱学の頃に帰るなど不可能で ──
福富に軽蔑され ──
現在を否定され ──
「うわあアアアァァーーッ!!」
荒北は絶望し、地面に突っ伏した。