【BL二次小説(R18)】 共に堕ちて①
「よっしゃア!ビーストモード突入!」
荒北は下皿のメダルをドル箱に移す。
左手でガシャガシャとカチ盛りを築きながらも、右手は打つのを止めない。
「これで一気に3千枚は出るゼ」
レバーを叩き、ウエイト中も惜しまず4箱目のドル箱を取りに行くため席を立つ。
自分の台に戻ると、違和感に気付く。
周りの客もみんな振り向いて注目していた。
「フリーズ……!」
一撃万枚も狙えるフリーズを引いたようだ。
演出に軽く2分はかかる。
液晶画面は興味深げに覗き込む周りの客に解放し、荒北は余裕綽々で休憩所にベプシを買いに行った ──。
ここは都内某区のパチンコ屋。
大学を卒業した荒北は就職もせず……。
スロプロになっていた。
元々ゲームも得意で理系の荒北だ。
パチスロというギャンブルだが、運任せにはせず技術介入をして立ち回っているため、充分プロとしての収入があった。
下手なサラリーマンより稼いでいる。
本日打っている台は、新台の『強虫ペダル』という、ロードレースを題材にしたスロットだ。
結構辛いスペックなので敬遠されがちだが、荒北の技術で良い見せ台となっている。
「さて……そろそろ戻るか」
荒北は休憩所でベプシを飲み干すと、ゴミ箱にガランと投げ捨て、自分の席に戻った。
「これからが本番だァ。1万回転全ツッパだゼ!」
ここからはもう閉店までトイレにも立たずブン回す。
それが勝利への道だ。
好調にドル箱が増えていく荒北。
気分良く打っていると……。
隣の台に誰かが座った。
隣は荒北の台『強虫ペダル』とは全くスペックの異なる台。
『ジャグリング』という、超初心者向けのスロットである。
ボーナスフラグが立つとランプが光って告知してくれる親切設計だ。
その台に座った客が、おぼつかない手付きでゆっくりストップボタンを押している。
(……チッ。初心者か。めんどくせェのが座っちまったナ)
荒北は心の中で舌打ちした。
初心者は打ち方をよく知らないため、質問してきたり、目押ししてくれと頼んできたりする。
脇目も振らず1回転でも多く回したいプロの荒北にとって、初心者は“天敵”と言っても過言ではない。
特に、なんだかんだ面倒見の良い荒北は、ついつい初心者の世話を焼いてしまうのだ。
(見ないようにするぜ。隣は見ない見ない。自分の台に集中だ)
自分に言い聞かせる荒北。
ペカッ。
その時、隣の台のボーナスランプが光った。
ボーナスフラグが立った告知だ。
これでリールの7の絵柄を狙ってストップボタンを押すと、777が揃うのだ。
しかし……。
隣の初心者は、そのボーナスランプの意味を知らないようだ。
いつまでも適当な絵柄をゆっくりゆっくり押している。
(ボーナス入ってンぜオニーサン)
隣が気になって、チラチラ見てしまう荒北。
しかし初心者は全く気付かず、マイペースにちんたら打っている。
パチンコと違い、パチスロは自分で目押しして揃えないと大当りが始まらない。
777を揃えずにいつまでも打っていると、ただただ無駄にメダルを浪費する仕組みだ。
「アーーッもう!」
荒北は我慢出来なくなり、隣の台に手を伸ばした。
ビシッ!ビシッ!ビシッ!
素早く3つのボタンを押し、赤7を3つ揃えてやった。
ファンファーレと軽快な音楽が鳴り、ビッグボーナスが始まった。
「ッたく……」
荒北は手を引っ込め、自分の台を再び打ち始める。
「ありがとう」
隣の初心者が荒北に礼を言った。
それにいちいち答えている時間も惜しい。
荒北は隣も見ずに片手を軽く上げ、頷いた。
「……ン?」
(今の、どっかで聞いた声だったナ)
荒北はそう思って、隣の台の初心者の顔を見た。
「……し!新開!?」
椅子から転げ落ちそうな程、驚く荒北。
「やあ、靖友」
新開は荒北の方を向いて、ニッコリ笑った。
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