【BL二次小説(R18)】 共に堕ちて⑩
それからすぐに、新開は荒北のアパートへ引っ越しを完了させた。
「これで、住まいも一緒。仕事も一緒。おめさんと毎日24時間一緒に居られる。まるで箱学ん時みたいだ!」
「ウぐっ!」
新開は抱き付き、全身で喜びを表した。
まるで箱学ん時みたい ──。
荒北も、それを潜在的にずっと望んでいた。
箱学時代……。
卒業して以来、あの頃がずっと忘れられない。
毎日が楽しかった。
毎日が充実していた。
毎日が輝いていた。
(オレ達の、栄光の時代……)
~パチンコ屋~
そして、二人で初仕事の時がやってきた。
開店と同時にダッシュで目当ての台の下皿に煙草を投げ込み、確保する。
本日のイベント台は『ミリオングッド』。
超爆発的スペックで有名だ。
新開は荒北と並んで座り、緊張している。
荒北は安心させるように説明した。
「この機種は目押しが一切必要ねェから超オメー向きだ。判別はオレがやる。オメーは何も考えずただひたすらブン回せ」
「お、OK、靖友」
千円札を投入すると、下皿にメダルが50枚出てくる。
リールを1回転させるのにメダルが3枚必要だ。
小役が揃うのも含め、だいたい普通の機種は千円で30回ほど回せる。
「靖友」
「なンだ」
「15回しか回してねぇのに、もうメダル無くなっちまった」
「気にすンな。どんどん追加しろ」
新開は2千円目を投入する。
「……」
青冷める新開。
また15回転ほどでメダルが無くなった。
「新開。これは、こういう台なンだ。通常時の小役がカットされてて、その分大当り時にドカンと出る。波の荒い台なんだヨ。たくさん入るがたくさん出る。だから気にせずジャンジャン入れろ」
「……」
半信半疑で3千円目を投入する新開。
しかしまたすぐ無くなる。
「こ、こんなスピードで金が無くなるなんて。まるで千円札をシュレッダーにかけてるみたいで……」
冷や汗が流れ、手が震えている。
「スロットってのはこういうモンなんだヨ」
「だけど!これ、おめさんの金だ!」
「オメーの金だったらもっと怖えェだろ!だからオレが出すっつったンだ!回せ新開!10万円まで入れても大丈夫だ!必ず勝てる!オレを信じろ!」
「じゅ、10万円……!」
なんという世界だろう。
目の前の機械に、あっという間に大金が飲み込まれていく。
これが、パチスロ。
周りを見渡しても、みんな平気な顔でどんどん金を投入している。
(靖友は、こんな世界で、プロを生業としているのか──!)
新開は初めて踏み入れた世界を理解するのに時間がかかっている。
「……」
荒北に言われた通り、震える手で金を投入し続ける。
水が上から下に流れるのが当然のように、何事も無く3万円が機械に吸い込まれていった。
グラッ。
目眩がしてきた。
無職の自分にとって、3万円は大金だ。
しかも、自分の金ではない。
愛する荒北の金なのだ。
荒北は気にせずジャンジャン入れろと言っていた。
しかし……。
(これが平気でいられるわけないじゃないか!)
新開は嫌な汗が止まらない。
4万円ほど入れた時だった。
── 777 ──
赤7が3つ揃い、ファンファーレが鳴った。
やっと最初の大当りを引くことが出来たのだ。
「やったナ!」
ポン!と背中を叩く荒北。
「ふぅ……」
命の糸が繋がった気がして、新開は汗を拭う。
「よく耐えたナ。一旦休憩だ」
荒北はフラフラの新開の脇を抱えて立ち上がらせた。
~休憩所~
トイレを済ませ、熱いおしぼりで汗を拭い、ベプシを飲みながら一服している二人。
ふーーー。
深く煙を吐く新開。
「ああ……煙草がこんなにも旨く感じる……」
「リラックス効果があるからナ」
「なぜみんな煙草にはまっていくのか、よく理解出来るよ」
「一番お手軽なストレス解消法なンだ」
「なるほど……怖いな」
「これからもっと怖いことになるゼ」
「え?」
荒北はニヤリと笑い、声を潜めた。
「オレ達の台は、間違いなく高設定だ」
「わかるのかい?」
「アア」
顔を寄せる二人。
「オレの台はまだ大当りが引けてねェが、まァ7万円ぐらいまでにャ来るだろう。そしてその後……」
「その後?」
「上手くいきゃア、20万円は返ってくる。二人で40万円だ」
「よんじゅ……!」
「シッ!」
思わず叫びそうになった新開の口を塞ぐ荒北。
「そしたら今の疲れも不安も吹っ飛ぶゼ」
「ムグムグ」
「オレを信じろってェ。サ、戻ろうか。閉店までブン回すんだ」
荒北は新開の肩をポンポン叩き、ソファを立った。
自分達の台へ戻って行く荒北の背中を、ポカンと眺める。
「……ホントに……?」
新開は信じられなかった。