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三日坊主日記 vol.49 『高級品やめますか、人間やめますか』

いま読んでいる本にこんなことが書いてあった。

サンパウロへ行った人からの話で、サンパウロでは高級なものを身につけている人は襲われ、殺されるので誰も高級品は身につけていない。高級車も走っていないし、高級ブランド品を売る店もない。殺されるのは嫌だから、みな質素に暮らしている。

去年の9月に発売した本なのでそんなに古い情報ではないはず。ほんとかなと思い検索してみると、やはり本当だった。サンパウロ(だけに限らずブラジルの特に都市部)では、昼夜を問わず強盗事件が多発していて、非常に危険だと。いつかテレビで見たことがあるんだけど、空港から市内へ向かうフリーウェイで逃げられないように前後を挟まれ(通せんぼですね)、持ち物を強奪される手口も横行しているそうだ。

それを読んでこんな出来事を思い出した。

僕は1996年に日本のとあるメーカーのCM撮影でサンパウロを訪れている。広告代理店の担当者とプロデューサーと僕だけが日本からのスタッフで、あとはスタッフも出演者も全て現地の人たちという中々スリリングな仕事だった。撮影は二箇所。まずはサンパウロで打合せやオーディション、そして住宅をお借りしてのロケハンから撮影。その後場所を移してメインカットのロケーションという予定だった。

サンパウロでの撮影の朝、現場に着くとカメラマンの様子が少しだけおかしいのでどうしたのか聞くと、ちょっとした事件があったという。出掛けようとガレージへ行くと見知らぬ男が車(確かHONDA)を盗もうとしているまさにその時だったそうだ。僕たち日本人にしてみれば大事件だけど、彼らにとってはそうでもないらしい。車はもちろん大切だけど、下手に抵抗すると射殺される可能性が高いから、ただ見ているだけ。その日もそのまま盗まれたそうだ。警察や保険がどれほど機能するのか知らないが、話し終えるとそのカメラマンは、普段と全く変わらず穏やかに撮影を進めていった。

1996年といえば、確かジーコが鹿島アントラーズで現役引退した年で、アイルトン・セナが亡くなった2年後。あまり記憶が定かではないけど、ブラジルでは長らく続いたハイパーインフレが、デノミと新通貨への移行などでほんの少し改善された頃だったような気がする。

僕たちが滞在したホテルは決して高級ではなく、むしろお湯もまともに出ないような安宿だった記憶がある。部屋の窓からは現地の決して裕福ではない人が暮らすような家々が見え、未舗装の道路も多く見られたような場所だ。もちろん現地のコーディネイターが手配してくれたので、危険な場所ではない筈だけど、夜は一人で出歩くなとキツく言われていた。僕も高級品は身に付けていなかったと思うが、質素なものを選んで着ていた訳でもなかったのに怖い目には遭わなかったし、犯罪が頻発していたようにも思えなかった(ラッキーだっただけかも知れないけど)。

それが30年近く経ち、経済大国の仲間入りしていると思っていたのに、治安は上向くどころか下を向いていたのか。まあ、ブラジルに限ったことではないし、他所の国と殺し合いをしてないだけでもマシなのかも知れない。

ちなみに、メインカットの撮影はサンパウロから200kmほど北にあるゴイアニア(Goiânia)という街の外れだったと思う(記憶が曖昧)。こちらでは非常に高級なホテルに泊まることができて天国だったけど、水道水は絶対飲まないこと、ミネラルウォーターも基本ダメ、水を飲むなら泡のちゃんと出ているスパークリングウォーターにするよう注意されたのをよく覚えている。

国が違うといろんな事が違って面白い。


当時の僕はカメラを持ち歩く習慣がなかったし、日記もつけていないから旅の記録が何もない。あったのかも知れないけど、PCがどんどん新しくなり、OSが変わっていく中で消えてしまったのかも知れない。やっぱり写真や日記というものは、人生にとって必要なものなんだと後になってから気づく。自戒を込めて。

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