『デリダ』 林好雄 廣瀬浩司
気鋭の哲学者をひとりずつ取りあげていく、講談社選書の「知の教科書」シリーズがついにデリダまできた。
新書よりずっと詳しく、専門書より廉価で手にとりやすいので、絶好の入門シリーズとして多くの人に親しまれている。
が、デリダとなると話が難しくなる。
デリダにとっては「テクスト(原文)がすべてであり、そこに書かれたことがすべてである」ので、要約を受けつけないのだと著者は言う。デリダを知りたければ彼の本を読むしかない。
そこで、ふたりの著者は「デリダを読まない者にはこの本は無用であるし、おもしろさを知ったあとでは、やはりこの本は無用になるだろう」という姿勢で執筆にのぞんだ。
入門書ではなく、デリダを読むためのブックガイドとして書いたのだ。
そういうわけで、本書は「デリダの生涯と思想」「デリダ思想のキーワード」「作品解説」「三次元で読むデリダ」「知の道具箱」という少し変則的な構成になったようだ。
本書の冒頭の「デリダの生涯と思想」はミニ評伝になっている。デリダという人物に興味が持てれば、おのずとその思想に入っていく糸口が見つかる。
難解な哲学者のイメージを持つデリダが熱狂的なサッカー少年であった事実は意外に思えるが、読む者には親近感を覚えさせる。
「三次元で読むデリダ」は「哲学対文学」「歓待」「赦し」など比較的に入りやすいテーマや角度からデリダを読み直し、組み立てていく哲学的エッセイだ。
巻末の「知の道具箱」には読者への宿題が出ている。「デリダ的な視点」から現代社会への批判や自分の創作を行ってみてくださいという。
このブックガイドを読み、さらに「何かを言いたいために書かれたわけではない」デリダのテクストを読んでも、まだデリダを読んだことにはならない。
既成の秩序を挑発する「デリダ的」批判や脱構築の思想は、読者のうちに何かを生みだし、それが実践されることによってはじめて生きた知識となるのだ。