地球環境と紙の価値を守るために、印刷会社にできること。【伸和印刷】
互いに信頼し合える間柄であるからこそ、営利関係を超え、未来の可能性を共創できる。そう信じるわたしたちは、「恋に落ちるくらい好きになった相手と仕事をする」ことを大切にしてきました。
共に未来を創っていくパートナーでもある団体や企業の方々を紹介する本企画、『わたしたちが恋に落ちた、あの人』。社会課題解決の現場で挑戦されている皆さんの想いや葛藤、そして弊社とどんなコラボレーションが生まれたのか、対談を通じてお届けしていきます。
今回取り上げるのは、創業69年の印刷会社である伸和印刷株式会社です。morning after cutting my hairがブランドガイドラインやホワイトペーパーの制作、WEBページの修正など、PRのサポートと伴走支援を行いました。
お話をうかがうのは、伸和印刷株式会社の3代目 代表取締役社長の仲川文隆さん。対談相手は、morning after cutting my hairでPRライティング等を務めた中西須瑞化です。
大切なのはお客様との対話。一番良い方法を提案できる印刷会社に。
——改めて、伸和印刷の事業内容や取り組みをお聞かせください。
仲川文隆さん(以下、敬称略):創業69年の印刷会社で、パンフレットやチラシや申込用紙など幅広く印刷物を取り扱っています。また、お客様に社内の印刷物の可視化を提案したり、紙の方針書をつくったり、WEBメディアで環境と印刷に関する情報発信を行ったりしています。
——「印刷しないことも提案する」というキャッチコピーが印象的ですが、こちらはどのような想いで掲げているのでしょう?
文隆:印刷というものは、お客様にとっては手段の一つでしかないと考えています。例えば社会や環境問題への意識を持っているお客様だったとしても、それを伝える手段が資源の無駄になっていては勿体ないですよね。なので、私たちは「印刷すること」よりも、お客様が伝えたい想いに寄り添って、場合によっては「印刷しない」という思いきった提案もできるくらい、お客様にとって一番良い方法を提案できる会社でありたいと思っています。
——デザイナーや広報担当者は、紙の材質や触り心地にこだわりを持った方も多いと思うのですが、そういうこだわりと環境への配慮は両立できるものなのでしょうか?
文隆:お客様それぞれが大事にしたいこだわりやスタンスがあると思います。そのスタンスを踏まえた上で出来ることを対話の中で提案していくことが大事だと思っています。
絶対の答えがあるわけではないので、落としどころをどう着けるかを、対話しながら確認していく作業をしています。
中西須瑞化:以前、morningの別の案件で冊子を作りたいという話があったときにも、伸和印刷さんに相談させていただきました。「出来ればこのページ数にしてもらえると資源が無駄にならない」とか、「色味を少し調整できないか」といった対話を重ねていただき、思いも寄らない部分が環境に影響を与えていることを知って驚きました。印刷物の利用そのものを減らすことよりも、根底として森林資源を大切にしたいという想いがあるからこそ、柔軟な提案をしていただけていると感じました。そして同時に、こんな提案をしてもらえること自体が知られていないので、もっと伝えていきたいと思わされました。
——仲川さんが環境問題に関心をもったのはいつ頃からですか?
文隆:あるときに家庭内でコミュニケーションの重要性を考えることがあって、「自分自身を受け容れて、自分らしくしよう」と思ったんです。そのときに、家庭や自分自身の話にとどまらず、物事を見る視点が広がるような感覚があって、会社のこともビジネス視点だけでなく様々な視点で考えたいと思うようになりました。
そこから世界の環境問題に関心を持って調べるようになりました。社会問題はどうしても詳しい人が知らない人を責めるような構図になりやすいと思うのですが、もっとポジティブに、知らない人に伝わるようになってほしいと思い、まず自分の会社に出来ることとしてWEBでの情報発信をはじめました。
需要があるのだろうかと、悩みながら情報発信を続けていた
——morning after cutting my hairにPRとブランディングを依頼した経緯をお聞かせください。
文隆:WEBで環境に関する情報発信をしたり、環境に良い印刷方法を提案したりしていたのですが、なかなか仕事につながらなくて。見せ方自体をもっと変えたほうが良いのではないか、と思ったのがきっかけです。
moningの皆さんとは前進団体の防災ガールの頃から繋がりがあって、代表の田中美咲さんのサステナビリティに対しての本気具合をひしひしと感じており、何かPR等の依頼をするならmorningさんに頼みたいと思っていました。
須瑞化:私が防災ガールで関わっていた頃から、何か印刷したいときに安心して相談できる相手が伸和印刷さんでした。環境負荷の少ない印刷方法についての知識とサービスがあり、不確定な案件であっても柔軟に対応していただけるのでとても信頼をおいていました。
morningは「恋に落ちるような相手と仕事をすること」を大切にしているのですが、伸和印刷さんのPRのお仕事をご一緒することになった当時はちょうど「恋に落ちるような相手ってどんなのだろう」と、もう一度社内で考えていた時期でした。既にある関係の中でも、実はもっと関係性を深められる人たちがたくさんいるんじゃないかと考えていた時期でもあります。そんな中、morningが運営しているサスティナビリティを学ぶラーニングコミュニティ「サスティナビリティカレッジ」で普段からコミュニケーションをとっていて昔から繋がりのある伸和印刷さんと、もっとしっかり関わることはできないかと思ったことが今回のお話をいただくきっかけでした。
——ブランディングを進める上で意識したことはありましたか?
文隆:弊社は、社員で話し合って決めるというよりは、どちらかというと代表者が意思決定したことを皆に共有して動いていくというスタイルなんです。その分、私がどんなことを考えているのかをしっかり社員に伝えられるようにしようという意識はしていました。今回morningさんとご一緒した中で、私たちのお客様にアンケートをとって改めて伸和印刷への評価や想いを聞いていこうという提案を受けて実行したんですが、そのアンケートから営業の担当社員がちゃんと評価されていることも分かったりしましたね。
そういう意味で、今回改めて自社のブランディングやPRをすすめるにあたって、「想いを持ったお客様にしっかりと寄り添って、その想いを伝えるサポートができること」が強みとして出せたらと思いました。
須瑞化:ブランディングの中で、ブランドトーンを定めるブランディングボードを作成し、それに基づいてWEBページも整えるということをやったのですが、今回は歴史ある印刷会社であるという技術力や伝統、重みを残しながらも、仲川さんの柔らかい雰囲気が伝わるように意識しました。ポップすぎず、でも近寄り難い雰囲気にはならず、シンプルだけど洗練されたイメージ。その企業や代表の方のカラーを大事にしたいなと思っているので、伸和印刷そのものと仲川さんの持つカラーを合わせて社内で話し合い、進めるようにしていました。
——ブランディングは具体的に、どのように進められたのですか?
須瑞化:今回morningはPRの伴走支援に加えて、今後のPRのための材料にもなるホワイトペーパーとブランドガイドラインの作成、WEBページの修正をさせていただきました。伸和印刷の名前の由来や理念などは、元の文章を仲川さんに書いていただいたものを、より伝わりやすいように整理していきました。
正直、はじめは少しカオスな状態だったようにも思います(笑)。仲川さんのお話はすごく素敵だなと思いながらも、扱う言葉の真意がわからずなかなか芯が見えてこなかったり、軸が分からないところもありました。だんだん対話を重ねる中で芯が明らかになってきて、形になっていったのが印象的であり、楽しくもありましたね。
文隆:自分の書いた文章が伝わりやすいようにアドバイスをいただいて整理するなかで、自分自身の思考の整理にもなりました。こうやって言えば伝わるのか、という発見もたくさんありましたね。morningさんは対話の中で「その言葉だと周りからどんなふうに見えるか」「本当にその見え方で良いのか」と本気で考えてしっかり伝えてくださるのでとても良かったです。
須瑞化:以前から、仲川さんの想いをお聞きするととても共感できて素敵なことを仰っているのに、それが世の中に伝わりきっていないのが勿体ないと思っていました。
「印刷しないことも提案する」というキャッチコピーも、捉えられ方によっては勘違いされてしまうリスクにもなり得る強い言葉だからこそ、この機会にしっかりと想いが伝わる言葉を仲川さんが持っておけるよう、ワーディングの整理では意識していました。
紙のもつ価値を残し、増やすために
——今回のPRやブランディングを進める中で、何か変化したことはありましたか?
文隆:営業をするときに、サステナビリティに関心のある企業の方にホワイトペーパーを見せながら話すようになりました。今まで環境配慮などの話はあまり自分から言っていなかったのですが、ブランディングを進めていたことで、思いきって自ら会社の想いを伝えられるようになりました。実際、ちゃんと伝わった感覚もあって、その想いの部分から仕事に繋がったこともあり、「提案して良いんだ」と背中を押されたような気持ちでした。
また、印刷会社からのお問い合わせや地方から話を聞きに来て下さる方もいて、想いを伝えることの大切さを感じることができました。
須瑞化:PRとブランディングでご一緒している途中の段階から反応は多くあったと聞いています。私自身は、こういった反応があったことで「ほら見ろ! やっぱり伸和印刷さんの想いに共感してくれる人はいるぞ!」と思いましたね(笑)
morningとしても、仲川さんがずっと実直に取り組んでいたことが仕事に繋がるようになったと聞いてとても嬉しかったです。
文隆:これまで、自分のやろうとしていることが本当に需要があるのか、悩みながら発信をしていたこともありましたが、ブランディングによって自信を持って伝えることができるようになりました。ホワイトペーパーのような見せられる補助ツールがあることで、ちゃんと整理して伝わるように話せるようになったのは、とても価値があると感じています。
——今回のプロジェクトを通して、今後どのような効果を期待していますか?
文隆:会社の想いを自ら伝えやすくなったことで、サステナビリティや環境への意識がある会社ともっと関わり合っていけたら嬉しいです。印刷物の可視化や、印刷方法を少し変えることでコストの削減やCO2の排出削減に繋がることはまだまだ知られていないので、今回発信するためのコアが出来たことで、これからもっと積極的に伝えていきたいですね。
須瑞化:印刷業界って幅広く様々な方と接点があるからこそ、印刷会社が環境配慮の意識をもった存在になることはとても心強いですし、これからの世界に必要な存在になると感じています。そんな可能性のある会社の一助になれたことはとても光栄ですし、伸和印刷さんがこの業界を牽引していくことで、日本の印刷リテラシーが上がってほしいです。
——社会全体で環境問題への取り組みやペーパーレスを推進していくにあたって、今印刷会社だからこそ出来ることはありますか?
文隆:いくらペーパーレスとは言っても、紙だからこそ残る記憶だったり五感で感じるものがあると思います。私たちはそういう「紙ならではの価値」を残し、増やしていきたいんです。紙だからこその良さを残すためにも、環境への配慮をしながら、廃棄してしまうような印刷物は減らしながら、より価値のある印刷物を増やしていきたいという想いです。
須瑞化:morningのメンバーも本が好きな人が多く、紙に対する愛を持っている人が多いです。ですが、自分の愛しているものが裏側で何かを破壊しているって悲しいですよね。根本からみんなが好きなものを好きでいて、幸せに暮らすためにも、紙の価値や扱い方も含めてアップデートしていくタイミングなのかな、と思っていますし、引き続き紙と印刷のプロフェッショナルである伸和印刷さんとも一緒に考えていきたいです。
(取材・執筆:西野日菜、編集:中西須瑞化)
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