肩や肘が痛い野球選手へ ~④~ 腕を最大限に使うためにも弾性要素が必要です。
前回の③までの内容は、腕の使い方を例に、「弾性要素」「伸張反射」「慣性の力」の3つについてのお話でしたが、腕を最大限に使うにあたっての他の体の使い方と、3つの要素のつながりについて話していきます。
「腕は鞭(ムチ)のように使え」といいます。
ムチというものは、しなるから速いのではありません。
しならせたムチが目標に当たるのを見越して、手元から引っ張るから、しなったムチ先が反対側に超高速でかえることで、紐のようなムチに速さと威力が生まれるのです。
つまり、投球においても、リリースポイントに至るのを見越して、腕を引っ張る動作が必要になるのです。
まず、軸足一本で立ち、前に倒れることで、プレートを踏んだ足を支点に、腰付近の重心の位置エネルギーの落下を円運動に変えて前に移動する推進力に変えます。
前足がつくと、上半身は投げるための動作に入っていて、胸が張られ、腕が円運動を開始してリリースポイントの真上付近に向けて動き始めます。
腕がリリースポイントに近付いたその時、前脚に体重移動が完了して、ほんの少し沈み込みます。これがムチでいう引く動作です。
この沈み込む引く動作をきっかけに投球が始まります。沈み込みの時、重心が前脚に乗るのですが、モモ裏のハムストリングスが付着している坐骨付近が伸びるようになることで、正しい体重移動が完成しています。なぜなら、これも弾性要素、伸張反射を使える動きだからです。これを使うことで、立ち上がるときは太ももの前の筋肉の収縮を使う必要がないくらいに戻ることができます。
そして、この前への移動のとき、骨盤は立っているはずです。すると、胸を張って後ろに残ろうとしている上半身と、反対に骨盤にある重心は前に行こうとしていて、腹筋をつないでいる恥骨と肋骨の下部は最大の距離になり、腹筋群が引っ張られます。腹直筋は縦に、腹斜筋は斜めに引っ張り返す「弾性要素」と「伸張反射」が生じます。
さらに、曲がった前足の膝によって、股関節に急ブレーキがかかり、股関節の少し上にある重心が「慣性の力」で前に飛び出し、上体の前への移動を強力に助けます。
その後、腹斜筋の斜めに引かれる動きによってウエストが捻じれて、胸の弾性要素と伸張反射、慣性の力が発生して、前に投降した①、②、③と説明してきた腕の使い方につながっていくのです。
筋肉の「弾性要素」と「伸張反射」は胴体にだって当てはまります。
このように、股関節から上が、ムチでいう先端ということになります。腕だけをムチのように使えということではなく、股関節から上の上半身すべてをムチのように使わなければならないのです。
お判りの通り、基本的に投球というものは、筋肉の収縮による力を使う必要はありません。
さらに、体重移動の前への移動さえ、骨格を上手に使うことができれば、自分の体重の位置エネルギーで補えてしまい、行動のための筋肉の収縮の力は、限りなく少なくできるのです。
基本を重視する高校生くらいまでの年齢では、こうした技術を体に叩きこむことが望ましいと考えます。
チーム事情で投球数が多くなることはあるでしょう。疲労困憊になれば、どんなに理想的な投げ方をしている選手でも、筋力を使って投げなければなりません。高校野球などの名シーンの映像は、そんな状態での投げ方であることを理解しておくべきです。頭を振りながら、力いっぱい投げ込んでいる様子は、残りの体力を振り絞って、筋肉の収縮も使いながらの投球です。そんな感動シーンを参考にすることなく、名選手が力感のない最初の投球練習のときを参考にすべきではないでしょうか。
選手生命にかかわるケガをすることなく、長く成長できる根底の技術を提供できるように、4回に分けた一連の投稿が役立つことを祈ります。