![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/107463704/rectangle_large_type_2_7624c1b0d49db74ca8449ed33a38e29a.jpeg?width=1200)
「トミオの犬」
現代詩 午前零時の再登板 №6
トミオは満州からの引き揚げ者
父の故郷・福岡でなく
縁もゆかりもない山口へ
ソ連が攻め入った満州四平で
匿った一人の日本兵を引き揚げ後に頼り
その男がいる山口の田舎へ来た
しかし
一家5人を歓迎するお人よしなど
そんな時代に存在せず
両親と姉弟
トミオ一家五人は母の故郷北海道に渡った
そこでも父母の働き口は見つからず
再び列島を南下
炭鉱が活気づいた
福岡直方に落ち着いた
進んだ中学では
引揚者だ
と 学年を一つ下げられ入学
陰では
引揚者と口をきくな と言われていた
ある日
弟と一緒に 食を削って
飼い育てていた犬が消えた
近くの男たちが
野犬狩りをしていた
犬をさらい 身代金のようにして
金を得ていたという
連中にさらわれ
犬が消えた―
買い戻す金はない
今 首を落とされ
皮をはがれ 身だけ
肉塊になって売られる
それがあの犬だ
トミオは 長年
誰にもそんな話はできなかった
あれから70年以上がたつ
まぶたの裏に ボタ山の赤い日と赤い肉が浮かぶ
Selvan B撮影