「詩人宣言XXXIII」
無頼派作家の西村賢太は
「評価に左右されては元も子もない 私は今の世界を書き続けます」
と
ぼくに語った 14年前のこと
芥川賞に2度振られながらも
40過ぎたばかりの彼は 明るい未来が開けているような
それを確信するような顔つきだった
本人と直接はもちろん
しばらくテレビで顔を見ることもなく
月刊文芸誌にも 前ほど作品を見かけず
それでも ぼくは勝手に
彼を 賢ちゃんと呼んでいた
どの小説も基本は彼自身を投影した北町貫多による与太話だ
だが それがぼくの脳髄にビンビンと振動を与えた
自身の真実部分は2割に過ぎない
と
けして露悪一辺倒でないことを説明していたけれど
五十路半ば前の突然死はショックだ
とうの昔に 没後弟子たる自身の墓を 師・藤沢清造の菩提寺に建立していた
だから 思い残すことはない―のでないか
彼ほどぼくにとって引力のある作家はいなかった
その存在はひとつのメルクマールであったが
もう存在がなくなった以上
ぼくは彼の分までも
書いてやる
その一心で詩をつづる