「乞う男」
某日
日比谷公園を歩いた
マッカーサーが君臨した時代
GHQが置かれた第一生命ビル
その前を通り過ぎ
道を渡って公園を抜け
私は霞が関に行こうとしていた
噴水の手前
ひとりの男が
私に向かってきた
赤地に白の十字の入った
ヘルプマークをバッグに下げている
男は無言で私の前に
手を差し出した
その中に紙片があった
「35じかんなにも食べていません」
男が書いたであろう
拙い文字が見えた 見せられた
物乞い――
久しぶりに出くわした
物乞い――
都会でも滅多に見かけない
だが 実際に存在する
物乞い――
何かを恵むべきか 否か
私は
いやいや
と
首を振って
男から離れた
物を乞う男
恵まなかった男
一瞬の交錯
男はまた
恵んでくれそうな人を探し始めた
私の視界の隅
その像が捕らえられた気がした
昼下がりのことだった