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思いやりと雨ふる台湾|『オールド・フォックス 11 歳の選択』

いい映画を観たあとは気持ちがほくほくする。ここ最近は鑑賞本数が減っていたのもあって、久しぶりにこの嬉しい感覚を味わえた。

台湾映画『オールド・フォックス 11 歳の選択』
この映画は存在も評判も知っていたのだけど、劇場では鑑賞できず、U-NEXTで観ました。素晴らしかった。昨年のうちに劇場で見ていたら、ベスト5には入れたかもしれません。

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1989年、台北郊外。レストランで働く父のタイライと慎ましく暮らす11歳のリャオジエは、いつか父とともに家を買い、亡き母の夢だった理髪店を開くことを願っていた。
しかしバブルによって不動産価格が高騰し、父子の夢は断たれてしまう。ある日、リャオジエは「腹黒いキツネ(オールド・フォックス)」と呼ばれる地主のシャと出会う。シャは優しく誠実なタイライとは違い、生き抜くためには他人を見捨てろとリャオジエに言い放つ。現実の厳しさと世の不条理を知ったリャオジエは、父とシャの間で揺らぎ始める。

映画.comより引用

台湾の名匠ホウ・シャオシェンが製作に入っていることでも話題になっていた本作。バブル期の台湾を舞台に、誠実でつつましい父親と、成功に貪欲な老狐狸(オールドフォックス)という正反対な2人の大人の間で揺れ動く少年の成長を描いたヒューマンドラマ。

フィルマークスをちらっと見たら、よく分からなかったと書いている人が結構いたのだけど、個人的にはとても分かりやすいお話(メッセージ性も非常にストレート)だと思いました。でもそれは、私がいま中国語を勉強していて、中国や台湾の「自分の家を持つ」ことに対する熱意を知っているからかもしれません。
リャオジエが自分の家に強い憧れを持っているのは、母親との思い出だけじゃなく、何もかも高騰し移り変わりの激しいバブル期の不安定な時代に、「自分の家」という安全圏を持つことがどれだけ重要か、11歳ながら不安と焦りと欲望と愛情、さまざまな感情がそうさせたのだと想像する。

ラストの描き方も腑に落ちる(描かない期間のことを想像できるような)形で美しかった。少年、お父さん、老狐狸、女性たち、皆が良いキャタクターだったし、関係性も良かったですね。
成功を手にしたように見える、老狐狸の孤独(同情)を跳ねのけるリャオジエがいい。描かない部分があるからこそ、人間性や関係性が想像できてよかった。こういう映画は本当に上質だと感じます。

レストランのホールで働き、家に帰ればサックスを吹き、ミシンを踏み、レコードを聴く。ガス代は節約し、内職もする。そしてコツコツ家を買うために貯金をする。贅沢はできないけれど、それでも優しい心を育むには十分。決してそれは負け犬ではない。息子が選んだ職業を見れば、その優しい心がいかに重要で美しいことか理解できる。お父さん、あなたの生き方も正しかったんだと。

本作には、経済的には恵まれているが空虚な日々を送る人妻として門脇麦さんが台湾映画に初出演されています。雰囲気もビジュアルも本作にぴったりで、今後もいろんな国で活躍してほしいなと思いました!(門脇さんが演じるキャラクターの未来にも幸あれ、と強く願う…!)

▼▼『オールド・フォックス 11 歳の選択』に登場するごはん▼▼

台湾映画ならではというか、本作とてもたくさんの食事シーンが登場しました。まかないシーンから映画の始まるのが、何より素晴らしい。
メモしながら鑑賞しましたが、以下のようなたくさんの食事がが登場しました。(一部はセリフのみ)

レストランの厨房で食べるまかない/蛋黄酥(ダンホアンスウ)/「鍋に包子がある」というセリフ/お父さんが中華鍋で作る卵焼き/厨房でもらうおこぼれ(パイみたいなもの)/大卤面(ダールーメン)/結婚式の料理と酒/朝食のトースト(ジャムを塗ってサンドする)/ごはんの横に腸粉/牛肉スープめん(55元)/大根餅か蛋饼か/焼仙草の屋台/氷の入った水

お父さんはレストランで働いているので、リャオジエは厨房の片隅で宿題をしたり一緒にまかないを食べたりする。同じくウェイターのおばちゃんがお客さんが残したもの?をおこぼれでくれたり、ちょっと宿題を見てくれたり、職場が優しい雰囲気なのがよかった。
山のようなせいろが飲茶ぽくていいですね。門脇麦さん演じるキャラクターのテーブルにも、叉焼包(チャーシューまん)のようなせいろが置いてありました。

不動産屋の綺麗なお姉さんが、家賃の集金に来る時にくれる蛋黄酥(ダンホアンスウ)。蛋黄酥は卵黄の塩漬けを小豆餡や緑豆餡でくるみ、パイ生地で包んでオーブンで焼くお菓子。リャオジエの好物だと思って買ってくれるが、本当はお父さんの好物だというのがキュートだ。
監督のインスタに劇中の蛋黄酥のお写真がありました。

老狐狸がよく立ち寄る屋台には、焼仙草​​(シャオシェンツァオ)の文字。何を食べているかまで分かりませんが、庶民的な屋台に高級車で立ち寄る姿がなんともチグハグ。だが彼の生い立ちを知ると、意外にもスッと受け入れられる。
ちなみに焼仙草は冬バージョンの仙草ゼリーとのこと。本作は雨の描写が多く見ているこちらも少し肌寒さを感じます。だからあったかいスイーツを食べたくなる気持ちも分かる。

親子で風邪を引いたとき、不動産屋のお姉さんが買ってきてくれた大根餅蛋饼。コップに入っていた飲み物は豆浆(豆乳)なような気がする(色合いから予想)

リャオジエが家で食べるとき、ごはんとおかずをワンプレートにしてよく食べていたのだけど、お米の横に腸粉のようなもの(白くて長方形のや柔らかそうなもの)があったのが面白かった。
おそらくレストランのまかないや、残りを持って帰っていると思うのだけど、日本では腸粉がおかずになることはないと思うので、食生活の違いが垣間見れて楽しい瞬間。

こちらの記事を読むと、蕭雅全(Hsiao Ya-Chuan)監督の映画は、すべて食事シーンから始まるらしい!見ていない作品もぜひ鑑賞したいです!

蕭雅全每部電影的第一幕,都和吃有關。《命帶追逐》在當舖櫃檯吃麵,《第36個故事》桂綸鎂沖咖啡又做甜點,《范保德》黃仲崑一家人同桌吃飯,奪下金馬獎最佳導演的《老狐狸》,則以白潤音坐在餐廳後台開場。

また劇中で何度も口にする「自分には関係ないこと」は、「干我屁事」と書くことが分かったのでメモしておく。


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