旅レポート#002:私たちはどう生きるのか 〜吉野源三郎、梨木香歩、そして宮崎駿へ〜
みなさん、こんにちは。街の言葉屋です。
新たな読書体験をご案内する「旅する人文知」!
今回はその2例目の事例報告をお届けします。
スタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』は、もうご覧になりましたか。今回の旅は、期せずして、この映画に深く関係する内容となりました。すでに観た方も、これから観る方にとっても、発見のある選書内容かもしれません。
それでは今回の旅の模様を、どうぞご覧ください。
【今回の旅人】
Sさん/富山県/学生
【選択コース】
◎ 星空コース:聴取・選書・読解・相読
井戸コース:聴取・読解・相読
地図コース:聴取・選書
【回数・実施形態】
・ヒアリング
・70分セッション×3
・オンライン
【お値段】
モニター期間につき、お客様の付け値
書籍購入に充てさせていただきます、感謝🙏
【今回のオーダー】
“自分”というものを持てる人になりたい。
価値観というぼんやりした言葉を、もう少しくっくりさせて、指針を持ちたい。
【今回のキーワード】
強さと弱さ・価値観・自由・戦争・リーダー
【巡ったテクストたち(選書リスト)】
① 梨木香歩 『ほんとうのリーダーのみつけかた』
② 梨木香歩『僕は、そして僕たちはどう生きるか』
③ かこさとし『未来のだるまちゃんへ』
+ 副テクスト① 宮崎駿『君たちはどう生きるか』
+ 副テクスト② 吉野源三郎『君たちはどう生きるか』
【旅の記録】
● 自由と戸惑い、Sさんの場合
大学入学直後、私自身がそうであったように、突如与えられた「自由」に戸惑う学生も多いのではないでしょうか。Sさんもまた、その「自由」をやや持て余している一人とお見受けされました。ところが、一方で強く感じられたのは「強烈に考えようとしている熱」でした。それは「考える材料が欲しい」という知への渇きにも似たもの。好きな本や、最近読んだ本は?という私からの問いに「坂口安吾。堕落論。」と答えが出てきたときには、大変驚かされました。また、その読みが大変深かったのです。以下は、ヒアリング時にSさんがくれた安吾の『堕落論』(←青空文庫に飛べます)に関する言葉です。
● 「価値観」とは?「強さ」とは?戦前・戦後の転向に問う
Sさんのもつ「人の弱さ」への優しく強い眼差しに、「これは生半可な選書ではいけないな」と背筋を正される思いがしました。坂口安吾(1906-1955)といえば戦前・戦中・戦後を生き、そこに生きる人間の有り様をよくよく観察した作家です。声高に「戦争あるのみ」と言っていた人間たちが、戦後「自分は最初から戦争反対だった」と悪びれもなく手のひら返しする様を目の当たりにした人は、坂口安吾以外にも数多かったはずです。
戦争か・・・。聞けば、ジブリ作品も好きだというSさん。そして7月に公開を控えていた宮崎駿監督作品『君たちはどう生きるか』の原作たる吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』も、漫画版を読んで面白かったとのこと。ここで、選書内容が決まりました。
今回のメインとしたのは『西の魔女が死んだ』でも有名な作家・梨木香歩さんの『ほんとうのリーダーのみつけかた』。こちらは梨木さんによる講演会の記録。ごく短く、目を通すだけなら30分ほどでも終えられそうな分量の本です。ところがどっこい、それはただ「目を通す」だけならばの話。しっかり読むのだとしたら、かなりの時間と思考力を要する内容になっています。
それもそのはず。こちらの講演会は、梨木さん自身が「『君たちはどう生きるか』という吉野さんの問いかけへの私なりの一つの答えの意味合い」(p.4) も込めて書いた『僕は、そして僕たちはどう生きるか』の文庫化にあたって開かれたもの。坂口安吾も、そして吉野源三郎も正面から向き合ったであろう「戦争と価値観」という題材について、梨木さんが強く巡らせた思考が綴られているのです。
こうした背景のもと1937年に出版された『君たちはどう生きるか』を受けて、2011年に『僕は、そして僕たちはどう生きるか』を書いた梨木さん。そして2015年の講演会を記録した『ほんとうのリーダーのみつけかた』。ここに副読本として、おなじく人々の手のひら返しに呆れ果てたという、『からすのパンやさん』などで知られる絵本作家・かこさとしさん(1926-2018)の自伝的記録『未来のだるまちゃんへ』も合わせて、今回の選書内容としました。
● 締めはスタジオジブリ最新作。吉野源三郎、梨木香歩、そして宮崎駿・・・
「7月に公開されるジブリの映画をしっかり見る準備」というのが、今回の裏テーマでもありました。吉野源三郎による原作を、梨木さんがいかに解釈したのか、どっぷりと組み合う。そして、後日映画館で、今度は宮崎駿監督がどのように解釈したのかを考える・・・そのような構成となりました。
梨木さんの講義録にある言葉に触れて、多くを思考していたSさん。ヒアリング時から真摯に思考し、言葉を紡いで伝えようとしていただく姿勢のおかげで、今回もまた大変充実した時間となりました。最後に、Sさんのご感想を載せさせていただき、今回のレポートを結びたいと思います。私たちはいかに生きるべきなのか…実りある時間を、有り難うございました。
【Sさんのご感想】
● 印象に残った文章・言葉
自分はずっと外側にリーダーを探して、ほんとうのリーダーを見つけることができずにいました。ですが、この言葉のおかげで「ほんとうのリーダー」をみつけることができました。外を探しても見つからないのは当たり前で、ほんとうのリーダーが自分自身であると気づくことができ、楽な気持ちになれました。そして自分が言葉屋さんに一番最初に話した「"自分"というものを持てる人になりたい」という漠然なイメージの答えな気がしました。しっかり自分の思っていることを主張できて、いいたくないことを言わされないような、自分がほんとうにやりたいことに熱中できるような、このようなことは自分のリーダーが自分である人にしかできないのだと思い、自分も強くて優しいリーダーを自分の中にもちたいと思いました。
● 日々の生活/学業/仕事に活かせそうな気づき
今回の冒険で「自分のなかに強くて優しいリーダーをもつ」という目標ができました。ひとりよがりなリーダーではなくて、誰かの力になれるような、おこがましいけど「ほんとうのリーダー」の存在に気づかせてあげれるような、そんなリーダーになりたいと思うようになり、そのためには強さと優しさが必要だと思いました。これから沢山のことを勉強して吸収していかないといけないし、自分の思うほんとうの強さとは何か、ほんとうの優しさとは何かを考えて、かたち(言葉)にしていきたいと思います。なので次は"強さと優しさ"をテーマにお願いできたらなと考えてます^^
● その他
自分のなかで漠然と思っていることが、言葉屋さんの多彩な言葉と感性でかたちになっていくことで、自分を見つめ直したり成長することができました。自分のあやふやなイメージから、言葉屋さんが本を選んで、リストを届けてくれたときに、とても感動しました。三冊とも自分に寄り添ってくれる、素敵な家族のような存在です。大切にしていきます。ほんとうに楽しい時間でした。ありがとうございました。またお願いしたいと思っているので、そのときはよろしくお願いします!
ここまでお読みくださり有難うございました。皆さんも「共に旅する人文知」、ご一緒してみませんか?気になる方はどうぞお気軽に連絡ください。現在モニター期間中、いまなら付け値でお受けします。ご連絡、お待ちしております。